さて、気を取り直して。

「そっかー。君がエヴェリカちゃん…。確かに、声も体格も男の子だね」

「…」

「でも、中身は女の子。なら、君は紛うことなき女の子だね」

シルナは、きっぱりとそう言った。

ここでシルナが「気持ち悪い」とか「女装趣味があるだけ」とか腑抜けたことを言い出したら、成層圏の彼方までぶん投げて爆破していたところだった。

まぁ、シルナがそういう人間じゃないことは、俺も分かっているけど。

分かっているからこそ、シルナのもとに連れてきたのだ。

「何でも気兼ねなく話してね。私、こう見えて精神科医だから。この手の相談は初めてじゃないんだ」

と、それっぽく言ってみせるシルナだが。

こいつ、実はなんちゃって精神科医である。

本職は教師だからな。騙されちゃいかん。

まぁシルナはそれなりの人生経験があるから、心と身体の性別が一致しない人がいることくらい、知っているだろう。

「そ、そうなんですか…」

「大変な思いをたくさんしたんだろうね。今まで、誰にも言わずにいたんでしょう?」

「…はい」

シルナがそう言うと、エヴェリカは泣きそうになっていた。

…大変な思い、ずっとしてきたんだろうな。

俺の前では明るい風を装っていたけど。

本当の性別をずっと隠し続けて、誰にも言えず一人で悩み続けた彼の苦悩が、どれほどのものだったか。

俺達には、想像することも出来ない。

「頑張ったねぇ。ここでは、ありのまま話して良いからね。君を気味悪がる人はいないから」

「…ありがとうございます」

さすがは、シルナである。

人をたらし込むぎじゅ、いや、人の心を解きほぐす技術は、天下一品だ。

この人になら何でも話して良いんだという、安心感を与えてくれる。

学院長になってて良かったな。

そうでなきゃ詐欺師だ、こいつは。

「…羽久?今私に失礼なこと考えてない?」

「とんでもない。エヴェリカの悩みを聞いてやってくれ」

そして少しでも、エヴェリカの心の重荷を軽くしてやってくれ。