エヴェリカの言う通りだ。

これは、俺が軽率だった。

「ごめん。嫌なこと言って」

「ううん。気にしないで」

オカマとか、気持ち悪いとか可哀想とか。

余計なお世話じゃないかよ。

自分が当事者だったら、同じ悩みを抱えていたら、彼らは同じことが言えるのだろうか。

関係ないから、そんな無責任なことが言えるのだ。

誰だって、生まれもった身体と、心が違っていたら…戸惑うし、驚くし、悩みに悩み抜くだろう。

その点、男を演じて、今まで周囲の期待を一切裏切らなかったエヴェリカは、立派な奴だ。

「皆が君みたいに、障害のことを理解してくれる人ばかりだったら…話な簡単だったのに」

そうは行かないのが、世知辛い世の中…ってことか。

「貴族でもある両親が、私の障害を理解してくれるとは思えない。理解してくれたとしても…きっと私に落胆するよ」

「…」

「うちにはもう跡継ぎがいないんだ、って。私がこれまで、こんなに大事に育てられてきたのは、私が男の身体をしているからなんだ」

…酷い話だよな。

女だったら、蔑ろにしても良いってか。

男にしか価値がないってか。

一度ぶっ飛ばしてやりたいけど、でも、貴族ってのはそういうものだ。

「そう思うと、家族には言えない。ずっと騙してたことになるんだもの…」

「…エヴェリカ…」

「サナキ君だけでも、知ってもらえて良かった。これで、本当の自分を誰も知らないまま、人生を終えることはなくなったんだから」

ちょっと、おい。

それはどういう意味だ。

「エヴェリカ」

「分かってる。別に遺言って訳じゃないよ」

エヴェリカは、笑いながらそう言った。

「ただ、このまま誰にも知られずに死ぬのは嫌だなーって、ずっと思ってたから。誰かに知ってもらえて良かった。一人だけでも」

「…」

「…どうしたら良いのかな、私。どうするのが正解なんだろ」

…めちゃくちゃ悩んでいらっしゃる。

正直、もう俺には重い悩みだ。

どんな言葉も、当事者でないお前に何が分かる、と思われそうで…。

自分の中に、自分じゃない他の自分がいる。

その気持ちなら分かる。

そして。

「…エヴェリカ」

「何?」

「ちょっと…紹介したい人がいる。他にもう一人、障害のことを話しても良いかな」

「えっ」

ある意味では博打だし、そんなことしても何の解決にもならないかもしれない。

だけど、あいつなら。

こういうことは、俺よりずっと適任のはずだ。

「もう一人…?それは…サナキ君の知り合い?」

「うん」

「信用…出来る人?」

「大丈夫。言い触らそうにも、言い触らす友達いないから、あの人」

秘密を漏らすような奴でもないから、安心して会える。