「結婚…」

エヴェリカはそう呟くなり、少し黙ってしまった。

…本人も、分かってない訳じゃないのだろう。

貴族の身の上としては。

エヴェリカは、実家では唯一の男児である「エガルテ」なのであって。

当然、跡継ぎ問題も発生してくる。

俺にとっては馬鹿馬鹿しいことこの上ないが、貴族の皆様にとっては、笑い事ではない。

むしろ、重要事項なはずだ。

「何て言うか…生々しい話ではあるけど…。中身が女ってことは、好きになるのは男?それとも女?」

難しい言い方をすれば…性的指向、か。

恋愛対象になる性別はどちらなんだ?

「好きになるのは…やっぱり、男かな…」

とのこと。

やっぱり。

中身が女なら、好きになるのは男なのか。

「つまり、女は恋愛対象外なのか」

「うん…。どんなに綺麗な女の子を見ても、友達以上には思えない…」

成程…。

普通の性同一性障害なら、それでも構わないのだろうけど。

「…貴族として、それは不味いんじゃないのか?」

「…そうだね」

エヴェリカも、それは自覚しているようだ。

この表情の暗いこと。

「今までも何度か、お見合いと称して、良家のお嬢さんと会わされてきたけど…。やっぱり駄目だった」

「…」

そもそもその身体に生殖能力はあるのか、女相手に射精は出来るのかとか、もっと生々しいことも気になったが。

さすがに、そこまでは聞けなかった。

この様子を見る限り、やはり女性との結婚は無理そうだ。

「でも…。貴族としては、結婚しません、は無理なんじゃないか?」

「…そう思う。もう少し年を取ったら、無理矢理でも結婚させられると思う」

「…」

やっぱり、そうなるか。

お姉さんが婿を取って…というのもアリだと思うけど。

やはり、直系の血を残したいと思うのが、貴族思考だよな。

「まだ先の話だと思ってたけど…。そうだよね、そんなに先の話じゃないよね…」

…早ければ、卒業してすぐ、か。

すると、どうなるのだ。

エヴェリカは女なのに、そうとも知られず女と結婚させられるのか。

そんなの、許されて堪るものか。

…相手の女にも失礼だろ。

「いつまでも隠しておけないのは、私も分かってる」

「…エヴェリカの両親は、エヴェリカが女だって言ったら、受け入れてくれそうな親なのか?」

「…分からない」

分からないって。

つまり、受け入れてくれそうな親ではない、ってことじゃないか。