「あぁ、ルトリア君…。元気出してくれると良いんだけどな…」

「…」

「はぁ、可哀想に…」

「…」

…おっさんが項垂れてるんですけど。

これどうしたら良いの?

放っといて良い?俺もゴスロリ専門店付き合わされて疲れてるし。

「…よし。カップ麺食べて寝よう」

「ちょっと待って羽久。無視をしないで無視を」

かまちょするからだろうが。

あと、患者の個人名を出すな。守秘義務違反だぞ。

「それより羽久、帰ってくるの遅かったけど、何処行ってたの?心配したんだよ」

それはどうも申し訳ありませんね。

連絡しようかと思ったけど、まぁシルナなら良いかと思って。

「…ゴスロリ専門店に行ってた」

「…へ?」

「そしたら、全身黒ずくめの変態みたいなのがいた」

「…??」

「そしてその変態に触発されて、ゴスロリワンピ買うのを見せられた」

「…ごめん。ちょっと分からない」

そうか。

まぁこの説明で理解出来たら、それは超人だ。

かくかくしかじか、と説明する。

エヴェリカに誘われて、彼女がずっと憧れていたというゴスロリ専門店に連れていかれたこと。

そこで変態ゴスロリ黒ずくめに出会ったことは…まぁノーカンで。

そして、もしかしたらまた次も付き合わされそうなことも。

「そっか…。羽久も大変だったんだね…」

「そうなんだよ…。シルナの120倍は大変だったよ」

「私がまるで、何一つ苦労せずに生きてるみたいな言い方、やめてくれないかな」

あ?何か違うのか。

「まぁでも、付き合ってあげたら良いんじゃないかなぁ。その子、ずっと女の子だってこと隠して生きてたんでしょ?」

「それは…」

「ありのままの自分でいられるのが嬉しいんだよ。きっと」

…そうかもな。

性同一性障害であることは、俺以外に言ってない、って言ってたし。

堂々と一緒に女の子の店に買い物に行けるのが、余程嬉しいと見える。

気持ちが分からない訳じゃないだけに、文句も言えない。

「…分かったよ。付き合ってあげるよ」

「頑張ってね、羽久。私も頑張る」

お前に何を頑張ることがあるんだよ。

と、言いたかったけど、我慢してやった。

これも温情である。