「初めてって…。…女であることは言ってないのか?家族に」

「…」

…言ってないのか。この様子だと。

つまり、エヴェリカが性同一性障害だってことは、家族には知られてないんだな?

そりゃまぁ…。言えないよな、なかなか…。

息子だと思ってたのに、実は娘でした、なんて。

家族会議どころじゃ済まないぞ。

おまけに、エヴェリカの家は中流貴族だと聞く。

跡取りとなるはずの貴族の息子が、実は娘となれば…それはもう、死活問題だ。

エヴェリカの他に、息子がいれば話は別だけど…。そこのところ、どうなのだろう?

「言えないの?家族には」

「…とてもじゃないけど言えない。エガルテは…アルヴァール家唯一の男子だから」

あぁ、やっぱり一人息子なんだ。

成程、家族にも内緒にする訳だ。

面倒臭いもんだな、貴族のしがらみって。

俺はそういうの、関係ない人間で良かった。

守るべきものはあっても、守るべき家はないからな。

「…親に話すつもりはないのか?これからも」

「話したいけど…話せないよ」

「話せないから、一人で女装して、誰にも見せずに一人で楽しむのか」

「…だって仕方ないでしょ。実は女だなんて言えないよ。家族も使用人も皆、私を跡取りとして大事にしてくれてるのに」

「…」

…まぁ、そりゃそうだよな。

そんな簡単にカミングアウト出来るようなことなら、ここまで悩んではいない。

ならば…。

「…せめて俺の前でだけは、女として振る舞えば良いよ」

「…え?」

「俺は、もうエガルテがエヴェリカだって知っちゃった訳だし…。遠慮することはない。スカートでも、ワンピースでも、好きなものを着れば良いよ」

「…!」

エヴェリカの、この感動に満ちた顔。

実はあなたに接触する為なんだけど、とはとてもではないけど言えなかった。

「あ…ありがとう。ありがとうサナキ君」

「う、うん…」

そんな…前のめりになって感謝されても。

「じゃあ…じゃあ、女物の服を買いに行くの、一緒に来てくれるかな」

は?

何の話?

「一人じゃ、どうしても勇気が出なくて…。誰かと一緒なら何とか…」

「え、ちょ、ま…。何?」

「どうしても入ってみたい店があるんだ!お願い、一緒に来て!」

「…??」

何で俺が?と想ったが。

エヴェリカは、完全に俺を味方と思っているご様子。

何で俺がそんなもんに付き合わなきゃならないんだ、と言いたかったが。

残念ながら、それは無理な相談だった。