そう。

俺とシルナは今回、またしても『禁忌の黒魔導書』探しで、別の時空にやって来ている。

場所は、ルティス帝国。

懐かしい、あの『オプスキュリテ』のあった時空だ。

郷に入っては郷に従えということで、俺とシルナは、それぞれこの国の帝都で、人間の振りをしている。

シルナは、とある精神科病院の医者として。

俺は、第三帝国騎士官学校の生徒として。

上手いこと人間に紛れながら、禁書探しを進めている。

「とにかく、エガルテ君と頑張って仲良くなってみて」

「あぁ」

「…」

「…何だよ」

何こっちをじーっと見てんだ。

気持ち悪いからやめろ。

「いや、聞いてくれないかなぁって。悲しいお話…」

「…かまちょかよ…」

典型的なうざいおっさんだなお前。

敢えて聞きたくないんだけど。

「あのね、凄く可哀想な子が入院してきたんだよ」

「お前、守秘義務は?守れよ」

喋っちゃいけないんじゃないの?そういうのって。

「そうなんだけど…。でも悲しいから。個人名は出さないから」

「…何だよ?その可哀想な子って」

「学校で酷い目に遭ってね?足を悪くして…。酷い鬱状態なんだよ。可哀想に。親からも捨てられてて」

「…」

「それでも彼のお友達が、献身的に彼を支えてて…。もうね、悲しくて涙が止まらないよ。なんて健気な二人なんだ」

何が楽しくて、おっさんの涙目を見なきゃならんの?

そりゃ確かに可哀想ではあるけど。

シルナが言うと、何か真剣みに欠けると言うか…。

「ちょっと羽久。聞いてる?」

「聞いてるよ…。可哀想なんだろ?」

「そう!可哀想なんだよ。なんとか元気になって欲しいんだけど…」

おいおい。演技のつもりで潜り込んでる病院で、マジになるなよ。

すぐ入れ込むんだから、この世話焼き学院長は…。

「ルトリア君…。どうやったら元気になってくれるかな…」

普通に固有名詞出してるし。

おい。喋らないんじゃなかったのか。

多分無意識なんだと思われる。

…それよりお前、俺達の目的が禁書探しなんだって分かってる?

こうなったら仕方がない。

シルナが人間の…ルトリア君とやらに入れ込んでいる間に。

勝手に、こちらで調査を進めるとしよう。