「やぁ、イレースちゃん。良かった、目が覚めたんだね」

シルナ教官は、私に対する憎しみや苛立ちなど、全く感じさせない屈託のない笑顔で、私に会いに来た。

彼の横には、当然のように羽久教官がついていた。

「…シルナ教官」

「何?」

「…ありがとうございました。あなたが回復魔法をかけてくれたお陰で、助かったのだと聞きました」

そうでなければ、ヴォイドの一撃を受けて…生きてはいられなかっただろう。

「気にしなくて良いよ。無事で良かった」

「…」

「…ヴォイドは、王立図書館の地下に封印されたよ」

「…そうですか」

ヴォイド…私の唯一の理解者だった男。

『禁忌の黒魔導書』。

そうか…。封印されてしまったのか。

「…私のせいですね」

「君のせいじゃないよ。どうせ、聖魔騎士団は『禁忌の黒魔導書』を追っていた。遅かれ早かれ、ヴォイドは封印されていたよ」

「…」

…慰めてくれているのかもしれない。

でも、私の気は晴れなかった。

私は、ヴォイドにとんでもない裏切りを犯してしまったのだ。

その罪は、簡単に消えるものではない…。

私が背負っていくしかない。

生きて。

幸せになる為に。

「…これから、どうするつもりだい?」

「…私は、生徒に酷いことをしてしまいました」

今なら、自分がどれほど馬鹿なことをしたのは分かる。

私は、間違っていた。

その私の間違いのせいで、多くの生徒の未来を断ってしまった。

ヴォイドを裏切った以上に、そちらの罪の方が重い。

「ラミッドフルス魔導学院をやめるの?」

「…そのつもりです」

生徒達も、もう私の顔を見たくないだろう。

逃げるつもりか、と言われるかもしれない。

でも、どの面をさげて、これ以上教師を続けられようか…。

すると。

「…じゃあ、イーニシュフェルト魔導学院に教師として赴任する気はないかな」

「…え?」

横で聞いていた羽久教官が、はぁ、またかと呟いた。