…どうして、気づかなかったのだろう。

私はかつて、幸せな子供だった。

その幸せを理不尽に奪われて、私は世界を変えることに固執した。

それが両親の願いであると想って。

でも、本当にそうだろうか?

二人が望んでいるのは…私を誰より愛してくれた二人が、本当に望んでいることは…。

そして何より、私自身が望んでいることは…。

「…」

…その為には。

私は、向こう側に行ってはいけない。

行ったら、もう二度と戻れなくなる。

…二度と、幸せを手に入れることは出来ない。

「…おい、イレース。おい」

「…」

ヴォイドが、私の肩を揺さぶった。

「しっかりしろよ。おい、早く人質を…」

「…ごめんなさい。ヴォイド」

「…あ?」

「…私は、あなたと共には行けません」

そう心に決めると、私の心はすとん、と収まるべきところに収まったような気がした。

「…どういう意味だよ?」

「あなたと協力関係を、なかったことにさせて欲しい」

「…」

そう言うと、ヴォイドは目の色を変えて、人質を床に放り。

代わりに、私の胸ぐらを掴み上げた。

「絆されたか、イレース。こいつの妄言に」

「わ、私の両親は…。世界を変えることなど望んでいない。私自身も…本当は何を望んでいるのか…気づいたんです」

気づかせてくれたのだ。

シルナ・エインリーが。

「だから、あなたとは行けない。あなたとの契約を解除します」

「…あぁ、そうかい」

見たこともないくらい、ヴォイドの目に殺気が満ちていた。

ヴォイドは、私の身体を床に投げ捨てた。

よろよろと起き上がると、ヴォイドは禍々しい殺気を飛ばしながら。

「…だったら、無理矢理にでもこちら側に連れてきてやるよ!」

「っ!駄目!」

先程床に放った女子生徒に向かって、魔力の刃を投擲した。

怯えた女子生徒の顔が、視界一杯に広がった。