私の味方となったヴォイドはまず、イーニシュフェルト魔導学院のシルナ・エインリーに目をつけた。

最初にヴォイドからその名前を聞いたとき、私は思わず聞き返した。

「…シルナ・エインリー?」

「知ってるか?」

「勿論、名前くらいは知っていますが…」

シルナ・エインリーと言えば、ルーデュニア聖王国聖魔騎士団の創設者。

そして、あのイーニシュフェルト魔導学院の学院長だ。

名前は知っているし、彼の著書も何度も読んだことがある。

でも、会ったことは一度もない。

「まずはあいつを何とかしないことには、変革は成功しないぞ。あいつは厄介だからな」

「…」

…そうなのかもしれない。

だが…考えを変えることは出来ないだろうか。

「彼がそれほど優れた魔導師なら、彼にも協力を要請してみては?」

話の分かる男なら、強力な味方になってくれるだろう。

かの有名なシルナ・エインリーなら、という思いが、私の中にあった。

「あいつが協力ねぇ…。味方になってくれるとは思わないぞ」

「それは私だって同じだったはずです。勧誘してみるだけなら良いでしょう」

「…まぁ、あんたがそう言うなら、そうすれば良いさ」

俺達は同志だからな、と。

ヴォイドは、楽しげに私の耳に囁いた。

まるで、悪魔のような囁きだった。

こうして私は、シルナ・エインリーと接触する計画を立てた。

その結果が、今回の夏期合宿だった。

私は自ら、合宿でラミッドフルス魔導学院の代表として参加することを申し出た。

このようにして、私は目論見通りシルナ・エインリーと接触した。

しかし彼は、私の思っていたような人物ではなかった。

とてもではないが、禁書に協力して、禍なる者を復活させる手助けをしてくれるとは思えなかった。

こんな甘い男では。

そして、協力してもらえないのなら、この男は殺すしかなかった。

間違いなく、私達の敵に回るだろうから、だ。

でも、正面からシルナ・エインリーとかち合って、勝てる見込みは高くない。

だからこそ、人質を取るという方法を取った。

生徒に甘いシルナ・エインリーなら、人質を見捨てるような真似はしないだろうから。

彼の性質を、逆手に取った訳だ。

実際、その方法は効果覿面だった。

シルナ・エインリーは、何とか私を説得しようとした。

当然、私は説得に応じるつもりはなかったのに。

それなのに、私の当初の意に反して。

私は、少しずつ絆されようとしていた。