「…お父さん、お母さん。私、明日も頑張るから。見守っててね」

私はその夜、日課である両親への祈りをしていた。

大事な写真立ての写真の中には、今は亡き両親と、その間に無邪気な少女が写っていた。

…幸せだった頃の写真だ。

これを見る度に、私は決意を新たにする。

あぁ、もう二度とあんな悲劇を繰り返してはならない。

その為に、私は…。

「…その為に、あんな生易しい方法で世界を変えようってのか?」

「!?」

突如聞こえたその声に、私は驚愕して振り返った。

そこには、何処からともなく現れた、容姿端麗な男が立っていた。

「だ、誰ですか…?どうしてここに」

私は、懐から杖を取り出した。

この男から感じる、この異様なまでの邪悪な魔力は何なのか。

今までこんな魔力、感じたことがない…。

「まぁ、そう身構えるな。俺の名はヴォイド」

「ヴォイド…?」

「あんたも魔導師なら知ってるだろう?『禁忌の黒魔導書』だ」

「…!?」

私も魔導師だから、それが何を意味するのか、知らない訳じゃない。

『禁忌の黒魔導書』。

それは、禁じられている魔導書の名前だ。

「禁書が私に…。私を殺すつもりで…」

だとしたら、私は今すぐここから逃げなければならない。

戦って、勝てる相手では…。

しかし。

「落ち着けよ。俺は別に、あんたを殺しに来た訳じゃないんだから」

「…なら、私に何の用です」

刺激しないようにしなくては。

この男は、簡単に私の命を奪ってしまえるだろう。

「あんたの仲間になりに来たんだ」

「…仲間…?」

「同志だな。俺はあんたの同志になる。だからあんたも、俺に協力してくれ」

「…」

全く意味が分からない。

同志って…協力って…。

「…意味が分かりません」

「あんたの目的は、世の中を変えること。そうだろ?」

「…!どうして、それを」

今まで、誰にも話したことはなかったのに。

「あんたのことはずっと見てた。イレース・クローリア。優秀な魔導師でないと、俺の力にはなれないからな」

…力になる?

よく分からないけど…この人は、私を殺しに来たのではないようだ。

むしろ、その逆。

私を…味方に引き入れようとしている。