「イレースちゃ~ん…」

彼女の教官室を、コンコンとノックする。

起きてるかな~起きてると良いな…。

女の子の部屋、妄りに訪ねちゃって済みません。

疚しい気持ちは全くないから許して。

「…はい」

寝てたら悪いなと思ったら。

イレースちゃんは、扉を開けてくれた。

良かった。

「…ごめんね、イレースちゃん。休んでるところ」

「…いえ、構いませんが。何か用事ですか?」

取り付く島もないとはこのこと。

内心ぷるぷるしながら、私は大人の余裕を装って。

「ひ、昼間の件について…お話ししても良いかな…」

ごめん。嘘ついた。

大人の余裕、全然見せられてない。

普通にめちゃくちゃ動揺してる。

情けない。羽久の目を見てみろ。「情けない学院長だ…」みたいな目。

ごめんね、情けない学院長で。

でも勇気を出して言ったから、勘弁してください。

「…良いですよ」

イレースちゃんは、敵意を向けながら頷いた。

そちらが蒸し返すつもりなら、受けて立つ、と言ったところか。

あ~怖いよ…怖い…。羽久ちょっと代わってくれないかな。

「あ、あのね…。まず…。昼間は、言い過ぎてごめんね。言葉がキツかった」

「…いえ…気にしてませんから」

本当に取り付く島がない。

気にしてないのは事実だろうな。

そのくらいで揺らぐ信念ではなさそうだ。

「こちらこそ、言い過ぎました。申し訳ありません」

むしろ、謝られてしまった。

「あ…いや…大丈夫…」

「…」

「…」

…会話終了。

どうしよう。話し合うつもりなのに、全然話し合えない。