合宿二日目の実習が終わった後。

生徒達が部屋に戻るなり、羽久が溜め息をついて言った。

「…喧嘩してどうすんだよ。馬鹿」

「…悪かったと思ってるよ…」

何のことか、と聞くまでもない。

イレースちゃんとのやり取りのことだ。

「しかも生徒の見てる前で」

「本当に悪かったと思ってるよ…」

喧嘩するのはまだ良い。

それを生徒の見てる前でやったのは、失敗だった。

あんなもの見せられて、皆も気分が悪かっただろうなぁ。

教師同士の喧嘩なんて、絶対生徒に見せちゃいけないものだよ。

それは反省しよう。

「でも、私は間違ったことは言ってないつもりだよ」

言葉がキツかったのは認める。

でも、言ったことは間違ってないと思う。

「…羽久はどう思う?」

「…まぁ、俺もシルナに同感だよ」

…良かった。

「でも、イレースの言ってることも、一理あるとは思う」

「…暴力を看過すると?」

「そうは言ってない。上手く行ってるなら何しても良いとも思ってない。ただ…イレースにも、イレースの信念があって、ああいうやり方をしてるんだろうなって伝わってきたから」

羽久の言葉が、私の心にズキンと響いた。

…その通りだ。

年上で、しかも異性の私に、あれだけキツい言葉をかけられたにも関わらず。

イレースちゃんは、少しも動じることなく、自分の意見を淡々と述べてみせた。

それは、彼女が彼女なりの信念を持っているからに他ならない。

その信念を、真っ向から否定してしまった。

イレースちゃんが怒るのも無理はない…。

「…まぁでも、体罰はいかんわな」

「うん」

いくら信念があろうとも。

体罰は駄目だ。言うまでもなく。

「…どうしたら良いかなぁ、羽久」

「どうするも何も、また話し合うしかないだろ。自分でもそう言ってたじゃん」

「…言ったねぇ」

やっぱり…それしかないよなぁ。