「君は自分の学院で、日常的に生徒に体罰を加えているそうだね」

最早、疑う余地はない。この目で見てしまったのだから。

羽久が言っていたあの噂は、本当だったのだ。

イレースちゃんは、日常的に生徒に体罰を加えている。

そして。

「えぇ」

全く悪びれることなく、イレースちゃんはその事実を認めた。

悪びれる必要すらない、と言うことか。

これはもう、教育方針の違いとか、そういう次元の話ではない。

人間性の違いだ。

「何で、そんな乱暴なことを」

「分かってもらおうとは思いません。私には、私なりの理由があります」

「その理由を聞かせてもらおうか。生徒を殴る理由なんて、私には全く思い付かないけどね」

何があっても、やっちゃいけないことがあるんじゃないのか。

教師として。人として。

それなのに。

「あなたは甘いんですよ、シルナ・エインリー教官殿。あなたのような生温い教育方針では、生徒は甘やかされることに慣れてしまう。困難を自分で乗り越えることを知らない、意気地無しばかりの世の中になるでしょう」

「…」

…成程。

そういう意見もあるね。

その意見が分からないとは言わない。かつて私も、同じようなことを考えていた。

厳しく育てることが教育だと、そう信じていた。

でも、それは間違いだ。

「…そんなやり方では、生徒は育たないよ」

恐怖と痛みで生徒を押さえつけることは、教育ではない。

そんなことをしても、生徒は大成しない。

教育者として、間違いなくイレースちゃんより経験の長い私が、そう断言する。