「大体、ラミッドフルス魔導学院でも、体罰は禁止じゃないか」

「そうだよな」

生徒達は、更に口々に文句を言った。

今ここに教官がいれば、叱責だけでは済まなかっただろう。

それでも、言わずにはいられなかった。

あの教官の横暴さには、誰もが辟易していた。

ラミッドフルス魔導学院は、確かに校則の厳しい学校である。

懲罰も当然あるが、その多くは、教科書の内容をひたすら書き写したり。

学院寮の廊下を拭き掃除させられたり。

教官の雑用を手伝わされたりというものだった。

しかしクローリア教官の懲罰は、そんな生易しいものではなかった。

クローリア教官は、容赦なく体罰を行った。

先程、授業についていけぬ生徒を蹴り飛ばしたように。

これがもし、イーニシュフェルトのシルナ・エインリー学院長であれば。

生徒が授業についていけなかったら、どうすればもっと分かりやすくなるか、どうすればその生徒が分かるようになるかを考え、手を替え品を替え、辛抱強く、優しく教えるだろう。

でもクローリア教官に、そのような優しさはない。

生徒に寄り添うように授業を行うイーニシュフェルトとは、全く真逆だ。

ついていけない生徒は、無理矢理引っ張ってでもついてこさせる。

それでもついてこれないなら、容赦なく振り落とす。

それがラミッドフルス魔導学院のやり方であり、その中でも最も顕著なのが、クローリア教官であった。

いくらラミッドフルスでも、校則上体罰は禁止されているはずだった。

それでも、クローリア教官は、躊躇うことすらなかった。

女性教官だからと言って舐めていたら、痛い思いをする…程度では済まない。

平手打ち、拳骨くらいなら可愛いもの。

先程生徒にしたように、生徒の腹を蹴り、拳で殴り付けることもあった。

痣が残るほど強く殴ることもあり、生徒からは暴君のように恐れられていた。

このような体罰は、本来禁止されている行為である。

しかし、生徒に恐れられているが故に、生徒達はクローリア教官からの体罰を受けないよう、皆死に物狂いで魔法の鍛練をした。

その結果、クローリア教官の受け持つクラスは、他クラスと比べて飛び抜けて成績が良かった。

それに、学院創設時から在籍している古株のクローリア教官は、教官仲間からも恐れられている節があり。

誰も、クローリア教官を戒めることが出来ない。

クローリア教官の目に余る体罰を、皆快く思っていないのは確かだった。

でも、注意すれば何を言われるか、何をされるか分からないから。

それに、クローリア教官がもしいなくなったら、ラミッドフルス魔導学院は今ほどの成績を誇ることが出来なくなるかもしれない。

そう思うと、教官達は誰も、何も言えなかった。

ただ、クローリア教官の横暴を、黙認するしかなかったのである。