二十音が羽久で?

羽久が二十音?

何それ?

「俺は羽久だし、それ以外の何者でもない」

「羽久って…。君は二十音のはずじゃ…」

「誰だ?それ…」

いや、こっちからしてみたら、君の方こそ「誰?」なんだけど。

「君は…まさか二十音の身体を乗っ取ろうとして…」

自慢ではないが、二十音は私が手塩にかけて育てた魔導師。

そう簡単に、他人に乗っ取られるはずがない。

二十音を乗っ取れるほどの魔導師なんて、私は知らない。

それなのに、何故。

「乗っ取る…?誰が、誰を?」

しかし羽久は、訳が分からない、という顔だった。

…私をはぐらかそうとしているのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。

演技…には見えないけど…。

「君が…二十音を」

「さっきから言ってる、二十音ってのは誰だ?俺は羽久だ」

こっちこそ。

さっきから言ってる、羽久ってのは誰なんだ?

嘘をついている訳でもない、二十音を乗っ取ろうとしている訳でもないとしたら…。これは…。

「…君はもしかして、二十音の別人格…?」

そう考えるしかない。

一人の人間の中に、複数の人格が芽生える現象がある、と。

以前、本で読んだ記憶がある。

気味悪がられることが多いようだが、これは周囲をからかっている訳でも、演技でもなく。

彼らの中にある複数の人格は、れっきとした一人の個人なのだそうだ。

二人、もしくはそれ以上の人間達が、仲良く一つの身体の中に同居している。

もし二十音が、多重人格者なのだとしたら…。

いや、別にもしそうだったとしても、私が二十音を嫌いになるはずがないのだが。

私の二十音への愛情は、微塵も薄れることはない。

この身体に、百人くらい二十音以外の人格が住んでいたとしても。

そして、もし百人くらい二十音の中に別の二十音がいるのなら。

私は、その百人全員と、仲良くなりたい。

「…君は、二十音じゃなくて…羽久だったね?」

「あぁ」

「さっきは疑ってごめんね。私はシルナ・エインリー。宜しくね、羽久」

これが、私と羽久のファーストコンタクトであった。