何の予兆もなかったし、その兆候すらなかった。

本当に、突然私の前に現れた。








「…誰?」

その日、その瞬間。

私は、生まれて初めて羽久に出会った。

当然ながら、最初に会ったとき、私はそれが誰なのか分からなかった。

ただ、二十音の中身が別物であることに気がついて、思わずそう尋ねてしまった。

誰、と。

二十音が、二十音じゃなくなっている。

それだけは分かった。

二十音とこの子じゃ、魔力の質が違う。

「あんたこそ、誰?」

二十音じゃない二十音が、逆に尋ね返してきた。

私は最初、神祖の回し者か何かが、二十音の身体を乗っ取ったのだと誤解した。

「…私の二十音から、出ていけ」

我ながら、酷く冷たい声だった。

二十音が羽久であると知っていれば、あんな冷たいことは言わなかったのに。

当時の自分を殴りたくなる。

でも、あの頃は分からなかったのだ。

「その子は私の…」

「…はつね?羽久(はつね)は…俺だ」

「…へ?」

はつね?

二十音?

…羽久?

私の頭の中は、「はつね」で一杯になった。

それぞれの区別が全くつかなかったのである。

音だけならどちらも「はつね」なのだから、混乱するのは当たり前である。

「…君は誰なの?二十音…じゃないの?」

「二十音ってのは誰だよ?俺は羽久だ」

ごめん。

ちょっと、頭がこんがらがってきた。