二十音と共に旅を始めて、半年がたつ頃。

夜通し歩き続けた私達は、夜が明けてから、広い野原に流れる小川のほとりで、しばし休憩していた。

すると。

「…ん…」

目を覚ましてから、私は自分がいつの間にか眠ってしまっていたことに気がついた。

そして、もう一つ。

起き上がると同時に、隣に二十音がいないことにも気がついた。

「…!?」

この半年、あの子が私の視界から勝手にいなくなることは一度もなかった。

まさか、私が眠っている間に逃げたのか。

そんなはずは。あの子に、そんなことが出来るはず…。

「…あ」

辺りを見渡して、私は二十音が、少し先で原っぱに座り込んでいるのを見つけた。

あんなところに…。

とりあえず、逃げ出したのではないことが分かったので、良かった。

「二十音」

名前を呼ぶと、二十音はくるりと振り向いた。

その手には、シロツメクサの花を何本か握っていた。

あんなものを、どうして…。

「何をしてるの?こっちにおいで」

嫌がるかと思ったが、手招きすると、二十音は素直にこちらに戻ってきた。

恐らく、私が眠ってしまってつまらないから、一人で遊んでいたのだろう。

あるいは、単にシロツメクサの花が気になっただけなのかもしれない。

しかし。

「…ん」

二十音は、手に握っていたシロツメクサを私に差し出した。

…え?

差し出された数本のシロツメクサに、私はぽかんとしてしまった。

…私に渡そうとしてるのか?

「…」

おずおずとシロツメクサを受け取って、私は二十音の意図を図りかねて、二十音の顔をじっと見つめた。

この無邪気な目を見るに…何か魂胆がある訳ではなさそうだ。

なら…何で私に花を?

好意で渡してくれた…ということなのか?

花なんてもらった記憶がなくて、私はどうして良いのか分からずに、戸惑ってしまった。