「シュニィ、これをやる」

「何ですか?」

試験が迫るある日のこと。

アトラスさんは、私にプレゼントをくれた。

何かと思って開けてみると、中には星形と三日月の形をあしらった、可愛らしいヘアピンが入っていた。

あらあら。

「まぁ、可愛い。どうしたんですか?これ」

「この間の、テキストのお礼にと思って。買ってきたんだ」

「…!そうだったんですか。お礼なんてしなくても良かったのに…」

見返りを求めてあんなことをした訳じゃないのだから。

「でも、もらってくれ。シュニィには随分助けられたから。そのお礼だ」

「そんな…。たくさん助けてもらったのは、私も同じですよ。…でも、ありがとうございます」

私は、有り難くヘアピンをつけた。

ちょっと子供っぽいだろうか?でも、嬉しい。

「うん、似合うよシュニィ」

「ありがとうございます」

「まぁ、シュニィは美人だから何でも似合うけどな」

「あなたという人は…またそんなことを言って。お世辞を言っても何も出ませんからね?」

呆れたように笑いながら、しかし内心では、何とも言えず心が温かかった。

不思議だ。この人といると、私は心がぽかぽかと温かくなる。

この気持ちが何処から来ているのかについては、考えないようにしていた。

考えると…胸が苦しくなってしまうから。

「あぁ、そうだ。今日な、担任の教官に聞いてみたんだよ。一応」

「聞いた…?何をですか?」

「今度の試験。魔法で剣を強化して戦ったりして良いのかって。折角今訓練してることも、本番になってやっぱり駄目って言われたら、俺達の作戦がパーだからな」

俺達の作戦って。

作戦と言うほどのものではないのだが。

「何て言われました?」

さすがにこの段階で、「それズルだから駄目」なんて言われたら。

アトラスさんではないが、私達は大層困ることになってしまう。

だが、私の予想通り。

「良いって言われたよ。楽しみにしてるって」

「そうですか。それは良かったです」

なら、私達はこのまま、訓練通り行けば良いんだ。

しかし、アトラスさんはまだ不安なようで。

「だけど、あの教官は良いって言ってくれたが、他の教官に反対されたら困るな。学院長とか…。賛否が分かれそうじゃないか?」

「え…?いえ、一人の先生に良いと言われたんでしょう?なら、大丈夫ですよ」

「何で?」

何でって…。

あ、そうか。アトラスさんは魔導師じゃないから、気づかないのか。

私は、最初から気づいていた。

「だってこの学校の先生って、皆…」

と、私が言いかけたとそのとき。

「やぁやぁ、二人共元気?試験の準備は進んでるかな?」

「ひゃあっ」

私達の後ろから、学院長がひょっこりと現れて、声をかけてきた。

び、びっくりした。

「が、学院長…」

「やぁ。こんにちは」

「こ、こんにちは…」

いきなり現れるんだから。びっくりもする。

「聞いたよ。二人共、何か面白い作戦を考えてるんだってね?」

「学院長も聞いたんですね。はい、彼女が考えてくれたんです」

私の代わりに、アトラスさんが答えた。

何で自信満々なんだ。

「シュニィは天才なんですよ。お陰で俺、自由に動くことが出来て…」

ちょっとアトラスさん。話を盛り過ぎですから。

学院長相手に自慢してどうする。

恥ずかしいからやめて欲しかったが、学院長はにこにことして。

「それは楽しみだなぁ。期待してるよ、二人共」

「はい!頑張ります」

プレッシャーだから、そんなこと学院長にべらべら言わないで欲しいのに。

「あ、あの、学院長…」

そんなに期待しないでください、と言おうとすると。

学院長は私の方を見て、悪戯っぽい笑みを浮かべ。

しー、と人差し指を口許に立てた。

その顔で、全て分かった。

…そうか、学院長…。私にその秘密を話して欲しくなくて、わざわざ割って入ってきたんだ。

私はアトラスさんに気づかれないように、こくこく、と頷いた。

すると学院長は、にっこりと笑った。

「それじゃ、試験の日、頑張ってね。楽しみにしてるよ」

「はい!ありがとうございます」

学院長はにこにこと手を振って、立ち去っていった。