外に連れ出すなり、私は鬼子を連れて村の外に出た。

この子を回収した以上、こんな村に用はない。

村人は、厄介者を追い出すことが出来たと喜んでいるようだった。

この子が生まれ故郷の村に戻ってくることは、もう二度とないだろう。

事実、この子が村に戻る前に…村そのものが、飢饉によって滅びたと、後で聞いた。

この子がいなくなった、その翌年のことだったらしい。

皮肉な話だ。

それはともかく、私は鬼子を連れ出して、まず最初にしたことは。

この子を身体を、綺麗に洗ってあげることだった。

このままじゃ、埃と垢にまみれて、性別もよく分からない。

「…君は、男の子?」

「…」

「それとも女の子なのか…。まぁ、どちらでも良いけど…」

「…」

鬼子はぼんやりと私を見つめるばかりで、何も返事をしない。

まるで、喋ることを禁じられているかのようだ。

…まぁ、静かだから良いか。

性別なんて大した問題でもない。

「…名前は?」

年齢も性別もどうでも良いが、呼び名がないのは少々困る。

自分の名前を、この子は答えられるのだろうか。

そもそもこの子に、名前はあったのだろうか。

村で聞いてくれば良かったかな。

私が適当な名前をつけても良いけど。

「…」

案の定、鬼子は何も答えずに俯いた。

名前…知らないのか、元々ないのか…。

仕方ない。

「…なら、君は今日から二十音(はつね)だ」

大した意味があった訳ではない。

ただ、世界に数多の福音をもたらす存在であれ、という望みを込めただけだ。

「…」

ぼんやりした顔をしていたのに、名前を与えた瞬間、鬼子…改め、二十音は、ハッと顔を上げた。

今初めて、息を吹き返したかのように。

「君の名前。二十音。良いね?」

「…」

何も答えない二十音は、返事の代わりに俯いていた。

無愛想と言うよりは…どう返事をしたら良いのか分からないのだろう。

まともに教育すら受けていないのだから、無理もない。

「…これは、面倒なことになりそうだな」

器に相応しいと思って、この子を引き取ったのは良いが。

これは、調教に時間がかかりそうだ。

まぁ…問題ない。

素質…すなわち、魔導適性は、見たこともないくらいに高いのだ。

一目見ただけで分かる。

この子は、魔導師として天才的な素養を持っている。

殺しても死なないのはその為だ。

保有魔力が多過ぎて、ただの刃物で切り刻む程度では、傷つけたそばから身体が修復してしまうのだ。

こんなに高い魔導適性を持った人間にを見るのは、私も初めてだ。

「…だからこそ、器に相応しい」

羽久にも、シュニィちゃん達にも、口が裂けても言えないが。

私が二十音を引き取ったのは、善意ではない。

むしろ、悪意からだったのだ。