「…どうです?何とかなりそうですか」

この子を殺せるか。

この子の両親は、すがるような眼差しで私を見た。

目の前にいるのが、血を分けた我が子であることを忘れているのかもしれない。

鬼子など…我が子ではない、ということか。

ならば。

「そうですね…。この子は、私が引き取りましょう」

私は鬼子を一目見て、この子を引き取ることを決めていた。

この子は…器に相応しい。

あの頃、私の心は何処までも冷徹だった。

さながら、我が子を殺したいと切望していたこの子の両親と変わらないほどに、残酷だった。

あの頃は、まだ。

「え、引き取る…?殺すのではなくて?」

「えぇ。ちょっと…色々調べてみたいので。いずれにしても、この村から連れ出すことに変わりありませんよ」

「…調べ終わったら返しに来る、なんてことはありませんよね?」

「勿論。責任を持って面倒を見ますよ」

疑わしい目を向けていた両親も、私がそう言うと、すっかり安心したようで。

「あぁ、良かった。なら引き取ってください」

本人の、目の前で。

まるで商談でも交わすように。

何も言わずに私達を眺めている鬼子は、何て思っていたのだろう。

恐ろしくて、聞くことが出来ない。

「…さぁ、行こうか」

座敷牢の鍵が、何年ぶりかに開けられた。

私は汚れた鬼子の手を取った。

逆らうこともせず、それどころか逆らうことを知らない赤子のように、鬼子は素直について来た。

鬼子…神の子…私の運命…が、外の世界に出た瞬間であった。