昼夜問わず歩き続け、私は峠を越えた。

辿り着いた村は、とても小さくて、私は心配になった。

これまでの経験から、このような小さな村ほど閉鎖的で、私のような余所者は受け入れられないのが普通だ。

私が村に入っても、石を投げられて追い出されるかもしれない。

ましてや、村の忌み子の話など、村の中でさえもタブーである可能性まである。

私は出来る限りの作り笑いを浮かべて、村人に接触した。

「こんにちは。私は街から来た旅の医者です。この村で、何か助けになれることはありませんか?」

最初、村人は突如現れた私に、懐疑的だった。

しかし、丁度その村には、若くして病に臥している青年がいた。

医者と言うなら、その青年を見てくれないかと、青年の母親に頼まれた。

渡りに船とばかりに、私は青年を診察した。

私は医者ではなく魔導師なのだが、あの当時はまだ魔法の概念が世間に浸透していなかった。

従って、魔導師だと言えば、余計怪しまれて追い出される恐れがあった。

だからこそ、私は医者だと偽ったのである。

まぁ、あながち嘘ではない。

回復魔法を使えば、医者と同じようなことが出来るのだから。

その青年は、熱病に冒されていた。

医療技術の乏しい村では、重い大病であったようだが。

魔導師である私にとっては、簡単な回復魔法一つで治る程度の病だった。

私は神妙な顔をして、適当な薬草をいくつか集めてきて、それを煎じて青年に飲ませ。

青年を診ている振りをしながら、こっそり回復魔法をかけた。

煎じ薬を飲ませるなり、みるみる回復した青年に、村人は驚愕し、そして喜んだ。

本当はそんな煎じ薬、何の役にも立っていないのだが。

勿論、そんなことは口が裂けても言えなかった。

結果としては青年を治したのだから、それが全てである。