「そりゃ、放っておいたら、羽久の命が危ないのは事実だけど…」

「そういう意味じゃねぇよ、馬鹿」

馬鹿って言われちゃった。

「神祖とやらが目覚めたら、シルナはそれを敵に回すことになるんだろ?シルナの命も奪うとか言ってたじゃないか!自分の命を奪おうとしてる相手が目の前にいるのに、放っておく奴があるか!」

ちょ、ちょっと迫らないで。そんな剣幕で。

不味い。このままじゃ、神祖より先に怒り狂った羽久に殺されてしまう。

すると。

「…ねぇ」

ずっと黙っていたベリクリーデちゃんが、声をあげた。

「もしかして、私を殺す相談してるの?」

「…」

「…そうなるね」

堪ったものじゃないだろうね。殺される側としては。

「…やめて欲しいな…殺すのは…」

そうだろうね。

誰だって死にたくはない。

自分を殺す相談を、目の前でしないでくれって話だ。

せめてよそでやってくれってね。

「うるせぇ。お前の中にいる神が俺達を殺そうとするなら、俺達はお前を殺してでも生き延びる」

羽久は殺意を滲ませながら、ベリクリーデちゃんに詰め寄った。

羽久が本気になれば、シュニィちゃんでも敵わないだろうね。

ベリクリーデちゃんも、魔導適性は持っているだろうけど、魔導師としての訓練を受けた訳じゃない。

素人同然のベリクリーデちゃんを殺すのは、訳ないだろう。

でも。

「やめなさい、羽久。ベリクリーデちゃんは殺さない」

「何でだよ!」

「必要がないからだよ」

「…」

羽久は、くるりとこちらを向いた。

その目は、怒りに染まっていた。

怖い。本当に怖い。

「…ふざけるのもいい加減にしろよ、シルナ」

「ふざけてなんかいないよ」

「ならもう黙ってろ。シルナが殺さないなら、俺が殺す」

成程、そう来たか。

それは困るね。

「本当にふざけてなんかいないよ。私も、ちゃんと考えて言ってる」

「…」

「信じなさい。私だって、羽久以上に羽久の命が大事なんだよ」

じっと羽久の目を見てそう言うと、羽久は溜め息をついた。

「…分かったよ」

「…いつもごめんね。何だかんだ納得させて」

「本当だよ。一生恨むからな」

え。それはやめて。

「…私は殺されるの?逃げた方が良い?」

首を傾げるベリクリーデちゃん。

ごめんね、目の前でこんな話して。

あと、逃げるのは多分無理だ。羽久相手だと。

「逃げなくて大丈夫だよ。殺さないから」

「じゃあ、いずれ殺されるの?あなた達に」

「それも心配要らない。私も羽久も、君を殺さないから」

「そう…。なら、安心だね」

この子、適応力凄いなぁ。

さすが神祖の移し身。器が大きい。