「…そうか」

神祖は、蔑むような目で私を見た。

「ならば、お前に用はない。お前を殺す。そしてそれも殺す」

「…」

私が殺されるのは構わない。

それで羽久を守れるのなら、私の命くらい、いくらでも差し出す。

けれど、私を殺した後に、羽久を殺すと言うのなら。

それは受け入れられない。

決して。

「…羽久は殺させませんよ。神祖よ」

「…そうだな。今のお前を殺すのは…私でも骨が折れるだろう。お前を殺すのは…今の私では無理だ」

「…」

「この身体を、もっと成熟させなくては…。その時が来れば、お前も、忌々しい邪神の命も、私が奪ってやる。今度こそ」

そう言い残して、神祖は「消えた」。

残ったのは。

「…あれ?」

ベリクリーデという人間の彼女が、きょろきょろと周りを見渡した。

「…私、禁書を倒したはずなんだけど…あなた達は誰?禁書の仲間なの?」

「仲間…ではないね」

むしろ、禁書の敵なんだよね。

「君が…ベリクリーデちゃん?」

「うん?そうだけど」

そうか。

君が、神祖をその身に宿す者か。

「…シルナ。こいつを殺そう」

羽久が、ベリクリーデちゃんの目の前でそう提案した。

「事情は何となく察した。こいつを殺さないと、俺達はとんでもないモノを敵に回すことになるんだろう?今殺しておくべきだ。中身ごと」

…羽久の意見は、もっともである。

短絡的だが…確実な方法だ。

確かに、この身体がベリクリーデちゃんであるうちに、彼女を殺せば…この身体が「成熟」して、神祖が羽久に牙を剥く日がいつか来るだろう。

それを見過ごす私ではない…。

いくら私が平和主義の人間でも、羽久が関わっているなら、話は別だ。

羽久の命を狙う者を、私が放置しておくことはない。

今ここでベリクリーデちゃんを殺すことで、羽久の命を守れるのなら…私は、そちらを選ぶ。

しかし。

「…殺さなくて良いよ、羽久」

ベリクリーデちゃんは殺さない。

殺さなくて良い。

「…ふざけてんのか、お前は」

羽久は、かつてないほどの怒りを滲ませて言った。

うわぁ…。怖い。

稀に見る、羽久のマジギレだ。