──────…しかし。

「…!?」

私と羽久が見つけたのは、『禁忌の黒魔導書』ではなかった。

気配を辿っていった先に、禁書はなかった。

転がった真っ黒な本と、一人の女性が立っているだけだった。

あの本は、禁書だ。

化身を殺され、封印された『禁忌の黒魔導書』。

そして、あの女性は…。

「…」

彼女は、私達をじっと見つめた。

その目は、まるで私を責めているように見えた。

彼女が何者なのか、すぐに気づいてしまった。

「…闇に堕ちた私を、運命が咎めに来たか…」

「…シルナ?」

「いや…こっちの話だよ」

怪訝な顔をする羽久に、私は微笑んで見せた。

…いつか、こんなときが来ると思っていたよ。

己の選択から、逃げることは出来ない。

「…お前、聖賢者だな」

彼女は…神祖は、私昔の呼び名で私を呼んだ。

とっくに失われたはずの呼び名で。

「…久方振りですね…。神祖よ」

私は神祖の前に膝を着いた。

私が膝を着く相手は、この世においてルーデュニア国王と、そしてこの人しかいない。

イーニシュフェルトの、最後の生き残りとして。

「…シルナ…?」

何も知らない羽久は、いきなり私が膝を着いたことに困惑していた。

説明してあげたいのだけど、残念ながら今は、それどころではなさそうだ。

「…本当に久し振りだ」

「…あなたは…その人間は?」

神祖が入っている器は、人間のものだ。

「この移し身の名は、ベリクリーデ。身体を借りさせてもらっている」

神祖の移し身。

アビスやエクリプスが『禁忌の黒魔導書』の化身であるように。

彼女は、神祖の化身…神祖を魂に宿した者。

つまり、彼女は聖なる神そのものなのだ。