お皿の上には、てろーん、としたピンクの物体が乗っていた。

たらこか?明太子か?と思うかもしれないが。

実は、そんな生易しいものではない。

ミミズだ。

シェルドニア王国の代表的な食べ物。

シェルドニアミミズのペースト。

それが、このピンクの物体の正体である。

その隣には、真っ赤などろどろのソースがかかっている。

このどろどろのソースの正体が何かをご説明しよう。

ミートソースか、トマトソースかと思われるかもしれないが。

これは、シェルドニア鹿の脳みその薫製、それを薄めてソースにしたものだそうだ。

良いか、脳みそだぞ。

更に、添え物として黒いセミが乗っていた。

嘘じゃない。

マジでセミだ。

夏になるとよくミンミン鳴いてるあれが、そのままの形で、色だけが真っ黒になっている。

以上。シェルドニア名物の定番ランチプレートである。

…食えるか。

「…よし、行けシルナ」

こうなったら、まずはシルナに毒味させるしかない。

しかし。

「えっ、やだよ。食べるなら一緒に食べようよ」

この野郎。弱気か。

それでも学院長か。

「シルナは人生長いんだから、セミやミミズの一匹くらい食べたことあるだろ?」

「さすがにないよ!昆虫だよ?」

ないのかよ。

「昆虫の一匹も食べたことないとか…。シケた人生送ってんな…」

「…悪かったね。昆虫の一匹も食べたことないシケた人生送って」

本当だよ。

「…仕方ない。じゃあ、せーので食べるか」

「そうしよう。…食べてみたら、意外に美味しいかもしれないし」

ミミズやセミや脳みそが意外に美味しいなんて、そんな豆知識は一生知りたくなかったな。

こんなことなら、よく考えずに名物ランチプレートなんて頼まなきゃ良かった。

「それに、食べ物に乏しいこの国で、食べ物を残す訳にはいかない。…食べよう」

「…分かったよ」

覚悟を決めるよ。

「…でもセミはハードル高いから、まずミミズからにしよう」

お前の度胸は猫の額ほどもないな、シルナ。

そこはセミから行けよ。

まぁ、俺もミミズから入るけど?

こうして、俺達は覚悟を決めてスプーンを手に取った…の、だが。

食べ物を無駄にしたくないと言いながら、俺達は結局、ランチプレートには全く手をつけず、この場を去ることになるのである。

何故なら。

「さて、頂きま…」

す、と言おうとしたそのとき。

俺とシルナは同時に、突如として発生した禍々しい魔力を察知した。

「…!?」

「この魔力は…」

間違いない。

『禁忌の黒魔導書』の魔力だ。

何処かであの禁書が、本性を現したのだ。

「シルナ!」

「うん、行こう」

今すぐに行かなければ、また姿を消してしまうかもしれない。

正体を現した、今がチャンスだ。

「あっ、無銭飲食」

飛び出しかけた寸前で、それに気づいた。

食べてはいないが、金は払わなくては。

「全部残しちゃってごめんなさい、お釣りは要らないので!」

俺達は皿の横に多目の代金をお供えして、食堂を去った。

何だかんだゲテモノを食べずに済んで、ちょっとホッとしたのは内緒である。