充分に警官との距離を離した俺達は、人目につかないよう、路地裏の隙間に逃げ込んだ。

ここなら、すぐには見つけられまい。

「はぁ…。やれやれ。巻いたようだな」

「いたた…。いきなり走ると足腰が…」

さすがシルナ。ジジィ。

「それよりシルナ…。あの警官は何だったんだ?」

「…君。今私に凄く失礼なこと考えたでしょ?」

「よく分かったな。良いからそれより、あの警官は何?」

「良くないんだけど…。まぁそれは置いておいて、あの警官は何だったろうね。私にも分からないよ」

「そうか。役に立たないなお前」

「辛辣!」

考えることをやめたら、シルナに何の価値があるんだよ。

「でも、本当に思い付かないね…。大体私達、ここに来てからまだ一時間もたってないんだよ?」

そうなのだ。

エリュティアに指定された時空にやって来て、この国に入って、さて『禁忌の黒魔導書』を探すか、と歩き出して、十分足らずで。

いきなり警官に追いかけられて、しかも発砲された。

追われるようなことをした覚えはないし、そもそも追われるようなことをする時間さえなかったじゃないか。

それなのに、まさか発砲までしてくるなんて。

「容赦なさ過ぎだろ」

「犯罪者に人権なしってことなのかな…?何の犯罪か分からないけど…」

道を歩いているだけで捕まる、ってどういうことだよ。

俺達が何をしたって言うんだ。

「これじゃ『禁忌の黒魔導書』を探すどころじゃ…」

と、俺が言いかけたとき。

「待って、羽久。人が来てる」

シルナが人差し指を口許に立てて、俺を制した。

おっと…。

路地裏からそっと覗くと、一人の女性が道を歩いていた。

おいおい、普通に歩いてるじゃないか。何であの人は捕まらなくて、俺達が捕まるんだ。

訳が分からない。

すると、シルナがあることに気づいた。

「…あの人の服、真っ白だ」

「あ…?」

言われてみれば、確かに。

道を歩くその女性は、不気味なくらい真っ白な服を着ていた。

あまりにも真っ白過ぎて、絵の具で何か絵でも描きたくなる。

すると、その女性の後ろから歩いてきた別の通行人も、全く同じ真っ白な服を着ているのが見て取れた。

何だ…?この服…。

「成程…。私達が警察に追われた理由は、この格好のせいかな」

「…マジかよ…」

つまりあの真っ白な服は、国民の制服なのだ。

外に出るときは、必ずあの真っ白な服を着なければならない。

しかもこの国では、それを着ていなければ、いきなり発砲されてもおかしくないほどの罪なのだ。

とんでもない国に来てしまったものだ。