私は、叔母さんの部屋に通された。

そこでお茶を出されたけど、収容所の茶色く濁った水に慣れている私には、奇妙な飲み物にしか見えなかった。

こんな洒落た飲み物より、ただの水の方が良かったのだが…口には出さなかった。

「…私は、ヘイリー・リダ・ヘールシュミットと言うの。あなたの名前は?」

まず、叔母さんは自己紹介から始めた。

そういえば、昨日会ってから、名前すら教えていなかったな。

「…ベリクリーデ。ベリクリーデ・イシュテア」

「そう、ベリクリーデ…。今更だけど、会えて嬉しいわ」

「…私もです」

収容所から解放してくれた、私にとっては命の恩人だ。

いくら感謝してもし足りない。

「教えてくれる?あなたが、どんな人生を送ってきたのか…」

「…長い話になりますよ」

「勿論、構わないわ。私もそのつもりだから…」

「…分かりました」

私はヘイリー叔母に、今までの人生を話した。

両親と共に暮らしていた頃のこと。

飢饉のせいでお母さんが死んだこと。

お父さんが政府の食糧庫に手を出し、そのせいで処刑されたこと。

犯罪者の家族として、収容所に入れられたこと。

そこで、十年以上生きていたこと。

自分に叔母がいるなんて、想像もしていなかったことも…。

たっぷりと時間をかけて話を終えると、ヘイリー叔母は苦しそうに目を伏せた。

「なんて恐ろしい話なの…」

「…そうですか?」

収容所では、特に珍しい話ではなかったが。

むしろ、ありふれていたくらいだ。

もっと悲惨な目に遭って、収容所に入れられた人もいる。

知らず知らずのうちに、私の心もすっかり麻痺してしまっているのかもしれない。

「なんてこと…。そのとき私があなた達のことを知っていれば、すぐに助けに行ったのに…」

「…」

…今更、だね。

今更言っても仕方がない。

もう十年以上前の話なのだから。

「過ぎたことは仕方ないです」

「…そうね、あなたの言う通り…。それより、あなただけでも無事だったことを喜ぶべきだわね」

ヘイリー叔母は、涙ぐみながら私の手を取った。

「これからは、私が傍にいるわ。私があなたを守る。もう二度と、収容所に入れさせるような真似はしないわ」

とても、心強い言葉だった。