叔母さんに席につくように言われ、私は戸惑いながらテーブルについた。

すると、エプロン姿の使用人達が次々に、テーブルの上に料理のお皿を並べていった。

私は、思わず立ち上がって、彼女達を手伝おうとしてしまった。

給仕をするのは、私の仕事だったから。

私が自分でお皿を並べようとするのを、使用人達は驚いて止めた。

それは私の仕事ですから、あなたはしなくて良いんですよ、とか言って。

…私はしなくて良い?

長年食堂婦を務めてきた私にとっては、他人に給仕されるというのは、非常に気持ちが悪かった。

それ以上に驚いたのは、テーブルに並べられた料理の数々だった。

本当にこれは食べ物なのか、もしかしたら全部幻覚で、実は全部霞なんじゃないかとさえ思った。

収容所では、硬いパンや黒っぽいお粥、薄いスープが主な食べ物で、それ以外の食べ物は皆無と言って良いほど見かけることはなかった。

だから、余計にその食べ物が奇妙に見えてしまった。

色とりどりの前菜や、分厚いステーキ、カラフルな果物の盛り合わせなどを、私はぼんやりと眺めていた。

長年そんな食べ物を見たこともなかったから、これが本当に食べ物なのか、脳みそが疑っていたのかもしれない。

「さぁ、どうぞ。召し上がれ」

叔母さんが微笑みながら勧め、私は弾かれたようにスプーンを手に取った。

最早、本能だった。

私は口の中に食べ物を詰め込み始めた。

こんなもの、今を逃したら、もう二度と食べられないかもしれない。

食べられるときに食べるのは、収容所での常識だった。

もしかしたら霞なのかもしれないと思ったが、口の中に入れると、ちゃんと噛むことが出来た。

良かった。本物なんだ。

味も食感も、楽しんでいる余裕はなかった。

慢性的な飢えに苦しめられていた身体は、口に入れられる食べ物なら、何でも良かった。

私は流し込むように、口の中に食べ物を詰め込んでいった。

「落ち着いて食べて。誰も盗らないから」

叔母さんが宥める声も、私の耳には入らなかった。

食べ物を前にすれば、飢えている人間は獣になる。

私はそのことを、誰よりよく知っていた。

盗るとか、盗られるとかじゃない。

生きるか死ぬか、なのだ。

ろくに噛みもせずに、私はテーブルの上の食べ物を、手当たり次第口に詰め込んだ。

テーブルマナーも何もなかった。

口のほとりに食べ物のカスをつけ、それどころかテーブルの周りにぼろぼろとこぼしながら、そのこぼした食べカスさえ、指で拾って口の中に入れる私を。

使用人達は、呆気に取られたように見つめていた。

お上品にナイフとフォークで切り分けて食べるのが当たり前の彼らには、何でもかんでもフォークで突き刺し、大口を開けて噛み千切る姿は、異常に見えたのだろう。

私に言わせれば、フォークを使っているだけ、まだ理性的な方だ。

収容所では、フォークやスプーンの使い方も知らず、何でも手掴みで食べる人も多くいたから。

味わいもせずに食べ物を流し込む私を、叔母さんは切なそうに眺めていた。

勿論、食事に夢中になっていた私には、そんな叔母さんの眼差しにも気づかなかったのだけど…。