そこから先は、早かった。

私は着のみ着のまま、叔母と名乗った女性に連れられ、収容所から出された。

私が客人の親族だと聞かされた途端、あれだけ威張り散らしていた監視員達が、私に媚へつらうような顔をしていた。

それどころか、「君ならいつか出られると思ってたよ」と、まるで友達のように声をかけてくる監視員までいた。

私は、思わずぞっとしてしまった。

他の囚人仲間は、突然ここを出ていく私に驚いていた。

一体何があったのか、彼女達は知りたかったことだろう。

だが、実は私にもよく分かっていなかった。

ただ、今までと同じように…命じられるがままに、言う通りに動いていただけだ。

十年ぶりの外の世界は、とても眩しくて。

収容所の基準からすれば、正に別世界だった。

道を行く人は、立派な服を着て、髪を綺麗にとかして、お洒落なバッグを持って、背筋をしゃんと伸ばして歩いていた。

それを見て、私はとても恥ずかしくなった。

収容所では当たり前だった自分の姿が、あまりにもみすぼらしくて。

擦りきれて、布が三分の一なくなった、薄汚れたぼろぼろの囚人服。

何年も手入れしていない、バサバサでボサボサの髪の毛。

靴なんて、両方右足で、しかも片方は踵の部分が壊れてなくなっている。

何日もシャワーを浴びていないせいで、酷い異臭を放つ身体。

あまりの酷い臭いに、収容所から出てすぐに乗り込んだ迎えの車の運転手が、顔をしかめていたくらいだ。

彼が顔をしかめるのを見て、私は初めて自分の身体の不潔さに気がついた。

とてつもなく恥ずかしくて、消えてしまいたくなった。

今までは、生きていることに必死で、自分の格好なんて頓着しなかった。

自分だけではなく、周りも皆似たような格好だから、余計に気にならなかったのだ。

自分が、いかにみっともない格好をしているか。

それなのに、お母さんの妹…叔母さんは、不潔な私に眉をひそめることもなく、私を連れていった。

何処に向かうのだろうと思ったら、辿り着いた先は、シェルドニアの基準では大豪邸と言えるほどの、立派な家だった。

「さぁ、今日からここが、あなたの家よ」

叔母さんは、嬉しそうにそう言った。

ここが…私の、家?

収容所の、十人一部屋のせせこましい部屋に、十年以上寝泊まりしていた私にとっては。

そこは、家と言うより、完全に別の異世界だった。