正直に言おう。

私はこのとき、呆然として、頭が真っ白だった。

収容所では、代わり映えのない日常が当たり前だった。

あまりに同じような毎日を送っているせいで、突然やって来た変化に、対応しきれなかったのである。

正に思考停止状態だった。

それでも何とか頭を回し、私は目の前の人物をまじまじと見つめた。

…叔母?

私の?

お母さんの妹。成程、それが本当なら、この人がお母さんにそっくりなのも頷ける。

でも…。

「お母さんに…妹がいたなんて、聞いてない」

私は、絞り出すような声で言った。

今まで一度も、叔母の話なんて聞いたことがない。

「聞いてないのも無理ないわ。私は姉さんが…あなたのお母さん幼い頃に、養子に出されたの」

「養子…?」

「そう。正直ね、私…姉さんのことは覚えてないの。それどころか、自分に姉がいることも、つい最近まで知らなかった」

「…」

「自分が養子だったことも、つい最近知ったの。私を引き取ってくれた父親が亡くなって、遺品を整理しているときに、養子縁組の書類を見つけて…。それで自分が養子だったことを初めて知ったわ」

…いきなり過ぎる展開に、ついていけない。

これは、本当に現実なのだろうか?

私は、また新しい夢を見ているのではないか?

「そこから自分の生家を調べて…。自分に姉がいることを知って、会いたいと思った。でも…姉さんはもう、何年も前に死んだのよね?」

悲しそうにそう言われたとき、私は胸がチクリと痛んだ。

ずっと忘れていた傷口を、抉られたような気分だった。

「…はい」

「…姉さんの夫…あなたのお父さんも、既に亡くなってると聞いたわ。だけど、姉さんの娘…あなただけは、生きて、収容所に入れられてると聞き付けて…せめてあなただけでも救いたいと思って、私はここに来たの」

…救う?

それって、どういう…。

「今の私は、シェルドニア王国で特権階級である貴族の当主なの」

「貴族…?」

「そう。そして、子供のいない私は、姪であるあなたを娘として、跡を継がせたい」

「…」

「その為にここに来たの。あなたを、この収容所から出す為に」

そう言われた途端。

私の耳には、他の言葉は何も入らなくなった。