鋭い声で呼ばれた途端、私は背筋を凍らせた。

ここでは、監視員に呼ばれるということは、何かしらの懲罰が待っていることを意味する。

それが事実だろうと、冤罪だろうと関係ない。

監視員が懲罰に値すると判断すれば、懲罰を受けなければならないのだ。

懲罰を受けるようなことをした覚えは、全くない。

でも、前にも言ったように…食堂婦である私は、仲間内から謂れのない密告を受けてもおかしくない。

呼び出しを受けた私が硬直しているのを見て、同室の仲間達は、馬鹿にしたように笑った。

あんた、一体何をしたの?と。

私の記憶が正しければ、咎められるようなことは何もした覚えがない。

内心脅えながら、私は急いで監視員のもとに走った。

遅れれば、余計懲罰が重くなってしまう。

「ついてこい」

「はい…」

監視員に連れられ、私はきっと、懲罰室に向かうのだろうと思っていた。

そこには拷問用の器具があって、私を尋問する監視員が何人か待っているのだろう、と。

そして確かに、連れていかれた部屋には、私を待っている人がいた。

でも、その部屋は懲罰室ではなかった。

更に、そこで待っている人は、私を尋問する監視員でもなかった。

「…?」

そこは、収容所にやって来た客人を通す為の、応接室だった。

私達囚人には、全く縁のない部屋だ。

長年収容所にいる私でも、入ったことは一度もなかった。

どうして、こんなところに…?

最初、私は監視員が連れてくる部屋を間違えたのかと思った。

しかし、間違えたのではなかった。

「入れ」

顎をしゃくって、監視員は応接室に入るように言った。

監視員に逆らうことなど思い付きもしない私は、言われた通り中に入った。

そこには、二十代後半くらいに見える、優しそうな女性がいた。

私はその人を見て、呆気に取られた。

お母さん、と呼びそうになった。

それくらい、死んだお母さんにそっくりだったから。

「こんにちは」

その女性は、私を見てにっこりと微笑んだ。

その笑顔は、やはり死んだお母さんに似ていた。

この人は、一体…。

「ありがとう、あなたはもう下がって良いわ」

お母さんにそっくりなその人は、私をここまで連れてきた監視員にそう言った。

監視員にこのような命令口調で話す人を見るのは初めてで、この人、こんな口調で喋って、殺されるんじゃないか、なんて検討違いなことを考えてしまった。

監視員は、黙って一礼して、その場を去った。

あの、いかなるときも威張り散らしている監視員を、たった一言で黙らせる人がいるなんて。

あまりにも新鮮で、私は呆然と立ち尽くしてしまった。

それよりこの人は、一体誰なんだ。

何で監視員に命令出来る?

何より…どうしてこの人は、こんなにもお母さんに似てるんだろう?

「…驚いているようね」

彼女は、私を見てそう言った。

「それに、姉さんの面影がある…。やっぱり、姉さんの娘なのね」

「…姉さん…?」

姉さんって…一体誰のこと?

もしかして…。

「私は、あなたの叔母。あなたのお母さんの妹なのよ」

あまりにも突然の邂逅に、私は運命的な何かを感じずにはいられなかった。