私はリネン室に向かい、訳を話して少し使わせてもらうことにした。

「シュニィ…?どうするんだ?」

私の後ろをひょこひょことついてきたアトラスさん。

これから何をするのか、分かっていない様子。

別に、大したことではない。

「霧吹きで湿らせてから、アイロンでシワを伸ばします。それから、洗剤を使って染み抜きを」

「!そんなことが出来るのか?」

「まぁ、完全に元通りにはなりませんけど…。少しは綺麗になりますよ」

別に破れた訳でもないのだから、捨ててしまうのは勿体ない。

私はてきぱきとテキストの修復作業を始めた。

アトラスさんは、そんな私を、ぽかーんと眺めていた。

こんな方法で直すなんて、思ってもみなかったらしい。

一通り修復作業が終わると、テキストは随分マシな姿になっていた。

「はい、直りましたよ」

完全に元通りではないが…普通に使うぶんには、問題ないだろう。

「凄い…!シュニィ、こんなことまで出来るのか」

「根が貧乏性なだけですよ」

孤児院育ちだと、自然とこういう知識だけは身に付くものだ。

「いや、本当に凄い。ありがとう、シュニィ。今日はシュニィに助けられっぱなしだな」

「助けるだなんて、そんな大袈裟な…」

「助かったよ。今度、何かお礼させてくれ」

お礼をされるようなことは、何一つしていないというのに。

アトラスさんは、嬉しそうに私の頭をくしゃくしゃしてきた。

…これ、癖なのだろうか?

女の子相手なら、誰でもやるのだろうか。

そうだとしたら…いささか腹が立つのだが。

すると。

「…あっ」

リネン室に洗濯物を出しに来たらしい女子生徒二人が、リネン室の扉を開けて私の姿を見るなり、固まった。

そして、どうしよう…とでも言いたげな、嫌そうな表情で二人は顔を見合わせ。

そして、逃げるようにそそくさと去っていった。

「…」

「…?何だったんだ?あの二人は」

この手の反応は、私にはもう慣れたもの。

むしろ、面と向かって言われないだけマシだとすら想っている。

だが、アトラスさんには何のことか分からなかったらしい。

「…私がいるから、気持ち悪かったんでしょう」

「…?何が?」

たまにいるのだ。ああいう子達。

地方から来ている生徒に多い。

「アルデン人に触ったり、声を聞いたりすると呪われる、という迷信が伝わる地域があるそうで…。そういう土地出身の生徒は、ああやって私を避けるんです」

アルデン人なら、珍しいことではない。

私も、今まで何度もああやって避けられ、

「何だそれは!言い掛かりじゃないか!」

アトラスさんは、テキストを握り締めんばかりに、そう叫んだ。

今度は、私がぽかんとする番だった。