…ちなみに。

いきなり何の話かと思うかもしれないが。

食堂婦達は、皆仲が悪い。

と言うか、収容所の女性は大抵、仲が悪いのだ。

男達は、仲間同士で連帯感のようなものを感じるが、女達にはそれがない。

こればかりは男女の性質の違いもあるのだろうが、食堂婦は特に、その傾向が強いように思う。

食事というのは人間が生きていく上で、一番と言って良いほどに重要なもので。

私達は、その食事を管理する食堂で働いている。

他の囚人達にとっては、羨望の的なのだ。

少なくとも食堂で働いていたら、飢え死にすることはないから。

それに、食堂婦は、自分の気に入った囚人だけに、こっそり余計にスープを注いでやることがあった。

そして囚人達は、余計なスープを得る為なら、家族や友人でさえも差し出すほどに飢えている連中だ。

私が食堂婦だと知るや、誰もが私に媚びて、気に入られようとした。

食堂婦に気に入られれば、余分な食べ物を得ることが出来るかもしれない。

飢えた目ですり寄ってくる彼らが、私はとても惨めで、でもそんなことは口が裂けても言えなかった。

皆、生きるのに必死なのだ。

それでいて、食堂婦同士は仲が悪かった。

お互いが、常に意地を張り合っているようなものだった。

多分、食堂婦ということで、色んな人に媚びへつらわれているから、プライドだけは高くなっているのだろう。

お陰で、食堂婦間の密告は、常に絶えなかった。

密告は収容所の中では、日常茶飯事だった。

近所の誰それが誰かのものを盗んだ、同僚が仕事の最中にサボっていた…等々。

密告は、手っ取り早く監視員からの評価を上げる、最も簡単な方法だった。

特に食堂婦は、盗み食いがバレたらすぐに解雇されるので、密告が多かった。

少し同僚に嫌われたら、あることないことでっち上げられて、食堂婦の仕事をやめさせられた。

でも、闇雲に密告すれば良いというものではない。

もしその密告に、充分な証拠を用意出来なかったら…つまり、密告がただのでっち上げだとバレたら、密告した者がクビにされてしまう。

それでも、収容所では密告が絶えなかった。

自分が生きる為に、我が子や親や友人を踏みつけにすることだって、ここでは珍しくない。

私には、密告する家族も密告される家族も…それどころか、友人の一人もいなかったから。

信じていた人の裏切りに悲しむことはなかった。

それが良いことなのか、悪いことなのかは分からない。

ただ、この収容所で、一人で生きているというのは良いことだと思う。

守るべきものが、何もないからだ。

例え私がここで死ぬとしても、誰にも迷惑はかからない。

誰も私の死に、悲しむ人はいない。

身軽で、自由で…自分の責任だけを取っていれば良いのは、楽だった。

たまにどうしようもなく、孤独に襲われることはあっても…。