そして、その日の放課後。訓練場にて。

「あ、シュニィ」

「こんにちは、アトラスさん」

「あぁ。今日はテキスト、ありがとうな」

「いいえ、どういたしまして」

落書きのことには触れなかった。

別に、嫌じゃなかったから。

「じゃあ、今日も始めましょうか」

「あぁ。…それにしても、シュニィはやっぱり、本当に頭が良いんだな」

「何ですか?藪から棒に」

私、今日も始めましょうか、しか言ってないけど?

「いや、あのテキスト。凄い書き込みがしてあって」

「あぁ…。汚かったでしょう?」

自分にとっては分かりやすいが、人から見たらただの汚い落書きだ。

しかし。

「いや、どのページもシュニィが手書きで書き込みしてて、頑張り屋なんだなって思った。道理で、頭が良い訳だよ」

アトラスさんはそう言って、また私の頭をくしゃくしゃ。

あ、頭が良いって…。テキストの書き込みくらいで。

そのくらいなら、他の生徒だって大なり小なりしてるだろうに。

そんなことで褒められても…別に…。

「そ…それより!あなたのテキストは?お茶、乾いたんですか?」

「ん?あぁ、乾いたんだが…」

アトラスさんは、鞄の中に入れていたテキストを取り出した。

その無惨な姿たるや、これを見ればテキストを書いた人が嘆くであろうことは間違いなし。

濡れたせいでページはごわごわ。おまけに、一部がシミになっていた。

「なんて残酷な…。それ、どうするんです?」

「う、うん…。困ったな。また新しいの…買うか…」

…全くもう。

「ちょっと、それ貸してください。元通りにはならないでしょうけど…。少しはマシにしますから」

「え?」

我ながら、貧乏性だという自覚はあるが。

こういう無駄な知識でも、まぁ、あって困ることはなかろう。