突然やって来たその客人に、村人は皆驚いた。

こんな辺鄙な村に訪問者なんて、皆無と言って良いほどいなかったから。

僧侶は俺のもとにやって来て、丁寧に挨拶した。

彼は何処からか、この村で『死火』という魔導書の使い手が住んでいることを聞き付け、わざわざやって来たのだった。

とても親切で、優しそうで…笑顔を絶やさない人だった。

原始的な暮らしをしていた俺達に、都会から持ってきた、様々なお土産を持ってきてくれた。

俺達にとっては、大変物珍しい品々で…僧侶はあっという間に、村人に受け入れられた。

元々争い事とは程遠く、気質も穏やかな村人達だった。

その人々に囲まれて育った俺も、当然そうだった。

だから、誰も気づかなかった。

その僧侶が、どす黒い企みを隠していることに。

彼は、村人と交流する為にやって来た訳ではなかった。

目的は、神を殺す魔導書と呼ばれる『死火』と…その契約者である俺だけ。

僧侶はある日、俺に『死火』を差し出せと言った。

ずっと優しかったはずの僧侶の豹変に、俺も、村人達も驚いた。

だが、彼は本気だった。

本気の殺意というものを、俺はあの日、初めて知った。

『死火』を差し出せと言われても、俺にはどうして良いのか分からなかった。

月読は俺にとって、自分の心臓のようなものだった。

心臓を差し出せと言われても、自分ではどうしようもないのと同じ。

まだ十歳かそこらだった子供の俺には、僧侶にいくら脅されようと、何も答えられずに震えているしか出来なかった。

しかし、僧侶は俺のそんな態度を、反抗と認識したらしく。

従わないのなら、と…俺の目の前で村人を一人ずつ殺していった。

僧侶は魔導師で、ただの人間でしかなかった村人を、まるで家畜を捌くように殺した。

俺はただ、それを見ていることしか出来なかった。






…そして。


気がついたときには、両親も含めて、村人は誰一人いなくなっていて。

そして、村が火の海に包まれていた。