俺の生まれた故郷では、俺が生まれるその前から、『死火』という闇の魔導書を祀っていた。

一体『死火』が何処から流れてきて、どういう経緯を辿って、俺の故郷に祀られていたのかは知らない。

月読自身、詳しく覚えてはいないらしい。

とにかく『死火』は俺が生まれ前から、俺の故郷にあった。

村の聖域…所謂神社のような場所で、本尊として祀られていた。

魔導師のいなかったあの村では、『死火』は使い手のいない、単なる古い本でしかなかった。

魔導適性のない村の住人達は、月読の姿を見ることも出来なかった。

ただ一人…俺を除いては、の話だが。

俺はあの村で、唯一の…そして初めての、魔導適性を持つ人間だった。

何故俺だけ魔導適性を持って生まれたのかは分からない。

何らかの遺伝子の突然変異か、ただの偶然か…。

理由は分からないが、とにかく俺には魔導適性があった。

月読の姿を見ることも出来た。そして…今まで誰一人使い手のいなかった、『死火』と契約することが出来た。

あれ以来、俺は常に月読と共にあった。

村でたった一人の魔導師ということで、気味悪がられたんじゃないか、と思うかもしれないが。

俺の場合、そんなことはなかった。

むしろ、今まで誰も使い手のいなかった魔導書を使える巫女のような扱いを受けた。

皆から慕われ、敬われ、有り難がられた。

魔導書と共に、村の宝として大事にされた。

多少窮屈ではあったけど、慕われるのは悪い気分じゃなかったし、村の本尊と共に讃えられることに、誇りを感じていた。

責任感のようなものもあった。

小さな村の中で、俺は満たされて、愛されながら生きていた。

でも…それも、長くは続かなかった。

きっかけは、村の外からやって来た一人の僧侶だった。