場所を改めて。

「…それで、『死火』の契約者である君は…名前、何て言うの?」

まず最初に尋ねてきたのは、そんなありきたりな質問だった。

…そういえば、まだ名乗ってもいなかったな。

「無闇(むやみ)・キノファ」

「無闇君ね。改めて、私はイーニシュフェルト魔導学院の学院長、シルナ・エインリーです」

「俺は羽久・グラスフィア」

羽久・グラスフィア…。先程の戦いを見たところ、かなり高度な時魔法の使い手らしい。

「それで無闇君…。君の後ろにいる女の子は?」

「…」

俺は振り向いて、月読と顔を見合わせた。

…月読の姿が見える者に会うのは、久々だな。

「…月読。彼女が『死火』だ」

「ふむ…。やはりそうだったんだね」

「…言っておくが、月読を『禁忌の黒魔導書』と同じだと思わないでくれ」

彼女も危険だから封印してしまおう、なんて言われたら、俺は今すぐこの二人と戦わないとならなくなる。

それは遠慮したい。

しかし。

「勿論、分かってるよ。その子からは、全く悪意を感じない」

悪意を感じない…か。

その通りだ。

「無闇君。君はいつから『死火』と…月読ちゃんと一緒にいるんだい?」

「…」

「あ、離したくないなら無理には…」

「…いや」

この二人が、今まで俺達を狙って何度もやって来た不届き者とは違うことは…既に分かっている。

俺から『死火』を取り上げるつもりで来た訳ではないことも。

ならば…。

「…お前達になら、話しても良い」

俺が何故『死火』と共にあるのか。

俺が『死火』と共に、どうやって生きてきたのか。

その全てを。