それが時魔法であることに気づくと同時に。

シルナ・エインリーが振り向いた。

「君、今のうちに」

「…!」

彼の意図に気づいた俺は、再び月読に呼び掛けた。

「月読」

「分かってる」

『死火』という魔導書の真髄。神を焼き尽くす炎が、エクリプスに向かって放たれた。

そこに、シルナ・エインリーが。

「ymplifa」

俺の炎に補助魔法をかけ、炎を増幅させた。

いくら『禁忌の黒魔導書』と言えど。

三人の魔導師の、即席の連携には耐えられなかった。

「くっ…!」

「…ごめんね」

シルナ・エインリーはエクリプスに肉薄し、杖を向けた。

エクリプスの身体は、蒸発したように消え。

そして、真っ黒な一冊の本が、乾いた音を立てて床に落ちた。

これが…『禁忌の黒魔導書』。

「やれやれ…。持って帰って、また封印しておかないと」

その本を、シルナ・エインリーが拾い上げた。

「ったく…。その本、こんなところにまで出てくるのかよ…」

「本当にねぇ。まさか『禁忌の黒魔導書』の企てだったとは…」

「結局こいつ、シルナを狙ってこんなこと企んだんだろ?なら一周回って、全部シルナのせいだな」

「ちょっと。責任転嫁やめて」

…何やら揉めてるが。

「…話に入って良いか?」

「あ、うん…」

他の魔導師と交流を持つつもりなんて、なかった。

しかし、まがりなりにも共闘した者同士、無視することは出来ない。

「彼らはどうする?」

シルナ・エインリーは、つい先程まで人質にされていたアシバ達を指差した。

…そうだな。

何も知らない彼らを、これ以上「こちら側」に関わらせる訳にはいかないな。

いずれにしても、俺はもうアシバ探偵事務所にはいられない。

「…月読。頼む」

「…仕方ないね」

溜め息をついた月読が、アシバとイズチ、ウルミに魔法をかけた。

途端、三人共魂が抜けたように意識を失った。

ただ意識を失っただけではない。

彼らの記憶の中から、俺の存在を完全に消させてもらった。

…こうするしかない。これ以上彼らを巻き込まない為には。

「…済まない、皆」

何度やっても、こればかりは慣れない。

己の信念の為に、他人の人生を弄ぶのは。