──────…俺は、『禁忌の黒魔導書』などに興味はない。

シルナ・エインリーとエルク…いや、エクリプスの因縁が何なのかも知らない。

ルーデュニアに『死火』の魔法を模した死体が出たことも、今初めて聞いた。

そんなことはどうでも良い。

だが、プライドはある。

俺を利用したことは、別に構わない。

利用される方が悪いからだ。

でも。

月読を…俺が生涯ずっと守ってきた『死火』を…出来損ない呼ばわりされることは。

それだけは、決して許せなかった。

「…月読」

「うん」

俺は、『死火』の魔法を発動させた。

「何のつもりだ。無闇・キノファ…。シルナ・エインリーを誘き出した以上、お前に用はない」

エクリプスは、俺など眼中にないようで。

月読の魔力を纏う俺を、興味なさそうに一瞥しただけだった。

そうか。

なら…興味を持たせるとしよう。

「…燃え尽きろ」

全てを焼き尽くす業火。『死火』の魔法が…エクリプスを襲った。

「…!?」

出来損ないと嘲った『死火』に、これほどの力があるとは思わなかったのか。

エクリプスは、驚いたように自分の身を庇った。

「…私の存在も忘れてないよね?」

「ついでに俺もな」

そこに、シルナ・エインリーともう一人の追撃が加わった。

「ちっ…」

この二人が何者なのかは知らない。

しかし、実力は確かなものだった。

エクリプスは、一瞬にして劣勢に追い込まれた。

彼にとっても、誤算であったに違いない。

この状況を打開する為に、エクリプスが取れる手段は一つ。

「…この人間達の命が惜しくないのか」

即ち、アシバ達を人質に取ることだった。

成程、確かにその作戦は有効だ。

「ふむ…。一般人を人質に取られると、私達としても不用意には動けないね」

当然ながら、シルナ・エインリーにも有効のようで…俺達は身動きが取れなくなった。

正直…『死火』を守る為なら、俺はアシバ達の命は惜しくなかった。

彼らの命と、『死火』を守ることのどちらが大切かと言われたら…それは言うまでもない。

しかし。

「…大丈夫だよ、『死火』の君」

シルナ・エインリーが、こちらに向かってウインクした。

大丈夫って…。

「よし、羽久。お願い」

「…良い歳してウインクとか…きも…」

「悪かったね!良いから、お願い」

「はいはい」

羽久と呼ばれた魔導師は、溜め息をついて。

そして、杖を振った。

「…eimt ptos」

その瞬間、時が止まった。