──────…事の次第は、こうだ。

まず、エルク・シークスと名乗った彼が、ルーデュニア聖王国近辺で、殺人を犯した。

死体を炭化させ、まるで伝説の魔導書、『死火』の魔法で殺したかのように、死体を偽装した。

こうすれば、聖魔騎士団は確実に動く。

そして、魔導書に精通している私が、捜査に出る。

全ては、私を誘き出す為に。

あとは、本当の『死火』の持ち主である彼の傍で、待っていれば良い。

『死火』の持ち主は、エルク・シークスに利用されたのだ。

私を誘き出す為の餌として。

「…」

彼はとても気の毒だけど、今は慰めている暇はない。

まずは、そこまでして熱烈に私を求めてくれたエルクの相手をしてあげないと。

「…そこまでして、私に会いたかったのは何故かな?」

「我らの主を蘇らせる為に、お前が一番の障害になるからに決まっているだろう?」

…我らの主、ね。

エルク・シークスの正体が、これで分かった。

「…シルナ。こいつ…」

羽久も気づいたようだ。

…その通り。

「君の正体は『禁忌の黒魔導書』。その守り神にして化身。そうだね?」

「いかにも。私は『死火』などという、出来損ないの魔導書とは違う。『禁忌の黒魔導書』の一冊、名をエクリプス」

…エクリプス…。

『禁忌の黒魔導書』が、こんなところにも。

…丁度良い。

「丁度良かった。私達の方もね、君達を探していたんだよ」

「何の為に?」

「無論…封印する為に」

「…面白い」

エクリプスの周囲に、どす黒い魔力が広がった。

この力、さすが『禁忌の黒魔導書』だ。

でも。

「私と羽久の敵じゃない…と、言いたいところだけど」

実は、今回は違うのだ。

「君の相手をするのは、私達じゃないようだ」

「…何?」

ちょっと早いけど、エクリプスの敗因を教えてあげよう。

『死火』という…神をも殺せると言われた伝説の魔導書を、その契約者を…甘く見ていたことだ。