探偵事務所にエルクを呼んだのは、他でもないアシバだった。

妹の件について、もう少し詳しく話を聞きたいとのことで、わざわざ呼びつけたのだ。

そして、それが間違いだった。

その日、エルク・シークスは、先日姿を見たときとは違う、異様な雰囲気を纏っている…ような気がした。

その雰囲気を最初に感じ取ったのは、月読だった。

「…キノファ。逃げた方が良い」

エルクの姿を見るなり、月読はそう言った。

「逃げる…?どうして?」

アシバ達に聞こえないように聞き返したが。

「最初からおかしいと思ってた。あの人…。あぁ、でももう手遅れかもしれない」

「手遅れって…何が…」

聞かなくても、答えはすぐに分かった。

エルク・シークスが、「正体」を現してくれたからだ。

「さてと…。じゃあ、妹さんについて覚えていることを、もう一度詳しく聞かせてもらえますか?」

何も知らないアシバが、改めてエルクに尋ねた。

しかし。

「あぁ、妹…。妹なんて、本当はいないんだ」

「え…?」

「全ては布石だった。私に妹なんていない。依頼は狂言だったんだよ」

「!?」

さすがのアシバも、イズチもウルミも、言葉を失った。

「布石…狂言…?それは、どういう…」

「まだ分からないのか?愚かな人間だ…。お前達は、騙されていたんだよ」

エルク・シークスの手のひらの上で、踊らされていた。

エルクが証言する出身地で聞き込みをしても、何の情報も得られなかった理由がこれだ。

全ては、彼のついた嘘だった。

気がついたときには、全て手遅れ。

「何だよ、それは…。あんた、俺達をからかってたのか?」

イズチが、嫌悪感をあらわにして詰め寄った。

「からかった?私はお前達のような脆弱な人間をからかうほど、暇ではない」

「なら、何の為に…」

「私はこの探偵事務所に…そして『死火』に近づく為に来た」

…あぁ。

月読が感じ取った不信感は、これだったのだ。