─────…あんな恥ずかしいやり取りが、覗かれていたなんて知ったら…私は羞恥のあまり、二度と学院長の顔を真っ直ぐ見れなかったに違いないが。

自分が覗かれていたなんてちっとも知らないので、今日も私は、元気に学校に通っていた。

そんなある日。

授業と授業の間の短い小休憩のときのこと。

いきなり、廊下をドタドタと走る、騒がしい音が聞こえてきたと思ったら。

「シュニィ!済まん!」

教室中に響き渡るような大きな声で、アトラスさんが私の教室に飛び込んできた。

私はびっくりして、読んでいた本を落としてしまった。

他のクラスメイトも、何事かとびっくりしていた。

「な、何?」

「シュニィいるか!何処だ?」

「こ、ここです」

手を上げると、アトラスさんはハッとして、遠慮なく教室に入ってきて、私のもとまで駆けてきた。

「い、一体何事ですか?」

「済まん!悪いんだが、大至急、『雷魔法応用Ⅲ』のテキスト、貸してくれないか」

「え…?」

テキストを貸す…?それはまた、何故?

「忘れたんですか?」

それなら、学生寮は学校の目の前なのだから、アトラスさんの超ダッシュで取りに行けるのでは?

と思ったら。

「いや…昨日、課題をやろうとしてたんだが…寝惚けて、テキストにお茶溢して…」

アトラスさんは、お茶が染み込んで、でっちょりとしたテキストを、指で摘まんで見せてくれた。

あーあ…。あんなことになって…。

「本当に済まん!一時間だけ貸してくれ!頼む!」

「それは良いですけど…。私、テキストに結構書き込みしてますよ?」

「大丈夫だから!気にしないから」

それなら良いけど。

あ、それから。

「アトラスさん、次の授業にこれ使うんですよね?」

「あぁ」

「その次の授業は、今度はうちのクラスが雷魔法の授業なので。授業終わったらすぐに返してくれますか?」

「分かった!授業終わったら、急いで返しに来る」

「お願いしますね」

私は『雷魔法応用Ⅲ』のテキストを、アトラスさんに手渡した。

「ありがとう!恩に着るよ、シュニィ。それじゃ!」

「はい。どういたしまして」

アトラスさんは、来たときと同じくらい騒がしい音を立てて帰っていった。

全く…。困った人である。

しかし、本当に困ったのはこの後である。