アシバと一緒に鶏肉のすき焼きを食べてから。

「お休み、アシバ」

「あぁ、お休み。キノファさん」

ジャージ姿のアシバに挨拶をして、俺は自分の部屋に戻った。

広くはない部屋だが、元々物が少ないから、すっきりしている。

部屋の電気を消し、折り畳み式のベッドに横になる。

…すると。

「…うふふ」

…。

…幽霊がいる。

横を見ると、少女のような若い女性が、椅子に座って、にやにやとこちらを見ていた。

…何が嬉しいんだか。

俺は敢えて彼女に背中を向け、壁際を向いた。

「ねぇ、無視しないでよ」

「…」

「おーい。まだ寝てないだろー。おーきーろ」

「…何だよ」

仕方なく寝返りを打って、小声で答えた。

下手に声を出すと、アシバに聞こえてしまう。

夜中に一人で喋ってる気持ち悪い男だと思われてしまいかねない。

だって彼女は、五人目のアシバ探偵事務所の職員。

そしてこの部屋の、もう一人の同居人。

俺にしか見えない、幽霊職員だ。

「良いじゃない。相手してよ。昼間は無視するんだから」

「俺にしか見えないんだから仕方がない。それに…夜だって、あんまり声出したら、隣に聞こえるんだぞ」

安いアパートなんだから、壁だってそう厚くはない。

隣で寝ているアシバに聞こえたら、厄介なことになる。

「小声で話すなら大丈夫だよ」

「…何を話すんだ?」

「今日のお客さん、面白かったねぇ。能面みたいな顔して」

今日のお客さん…Oさんのことか。

「あの人にとっては、笑い事じゃないんだぞ」

きっと今頃、眠れない夜を過ごしていることだろう。

それどころか、今まさに修羅場を迎えている頃かもしれない。

いずれにしても、眠れないことに変わりない。

「人間って面白いねぇ。浮気されるのって、そんなに嫌なのかな?」

「…嫌なんじゃないか?」

永遠の愛を誓ったのに、裏切られる訳だからな。

「浮気されるのが嫌なら、そもそも結婚なんてしなきゃ良いのにね」

「…そうだな。でもそれが出来ないのが人間なんだよ」

人間という生き物は、短命だからな。

限られた時間の中で、次の世代を育てないといけないとあらば。

焦って繁殖もするし、白々しいと思いながらも永遠の愛を誓うのだ。

「明日は何をするの?また浮気調査?」

何でわくわくしながら聞いてくるんだ。

「さぁな。猫探しかもしれない」

「猫かぁ。良いね、猫可愛いよね」

「素行調査かもしれない」

「また面白い話が聞けそうで良いね」

どちらに転んでも楽しみそうだな。この女は。

「…俺はもう寝るぞ、月読(つくよみ)」

「はいはい。お休み」

俺は月読の相手をするのをやめて、目を閉じた。

しかし。

「…あぁそうだ、君に忠告しないといけないことがあるんだ」

「…?」

「…何かが、また君を狙ってるよ。気をつけてね」

「!」

…何だと?

呑気に寝てはいられなくなった俺は、急いで飛び起きた。