イズチが怒りたくなる理由は、理解出来なくもない。

と言うか、俺も同感だ。

毎日毎日、他人の奥さんの不倫現場をカメラに収める為に。

俺達は、ラブホテルの前に張ったり、不倫相手の仕事場を調べに行ったりと、大変気の進まない捜査を続けている。

正直、やめたい。

でも。

「…仕方ないだろ。他に仕事ないんだから」

今更言うな、とアシバは低い声で言った。

「だからって、仕事選ばな過ぎだろ。俺達探偵だろ?ここ探偵事務所だろ?何で毎日毎日、浮気調査ばっかやってんだよ!?」

「他に仕事ないんだから仕方ないだろ!」

「探偵事務所って言ったら、殺人事件の調査とか…行方不明者の捜索とかさ!」

漫画じゃないんだから。

殺人事件の調査や行方不明者の捜索は、探偵ではなく警察の仕事だ。

まぁ探偵と聞くと…警察が解決出来なかった事件を、見事解決した!なんて…何やら格好良いイメージがあるかもしれないが…。

あくまでそれは、漫画や小説の中でのお話。

現実ではない。

すると、ウルミが横からこう言った。

「あ…。行方不明と言えば…脱走した猫ちゃんの捜索を頼みたいってお客さんが…昨日…」

「違う。俺が探したいのは猫じゃねぇ!」

まぁ、良いことじゃないか。行方不明になる人がいないんだから。

それだけ平和だってことだ。

浮気は全然平和じゃないがな。

「仕事選んでる場合じゃねぇんだよ!嫌でもやらなきゃ、ここの賃貸料も払えないし、お前達の給料も払えねぇの!黙って写真見ろ!」

「ぐぬぬ…」

さすがに給料なくなるのは困るのか、イズチは悔しげに引き下がった。

まぁ写真くらいなら…と思ったのかもしれないが。

アシバは、冷たくこう言った。

「…それと、ラブホテルの監視映像も観るぞ」

「ぎゃぁぁぁ!帰る!俺は観ねぇぞそんなもん!」

「うるさい。俺だって嫌なんだ一蓮托生だ!」

「…あ、ウルミにはさすがに刺激が強いから…ちょっと席外しててくれ」

アシバとイズチと俺は良いとして、女性社員のウルミには、さすがにちょっと見せられない。

「あ、ありがとうございます…。じゃ、見終わったら呼んでください…」

ウルミは顔を赤くしながらそう言って、逃げるように部屋を出ていった。

…良いなぁ。俺も逃げたい。

でも逃げる訳にはいかないのだ。これも仕事だからな。

小説の中みたいに、格好良い仕事ではない。

やることと言えば、イズチの言う通り、連日浮気調査や失せ物探し、婚約者の素行調査…等々。

人の見たくない暗い部分を見せられることも、多々ある。

でも。

こんな仕事でもやらなきゃ、生きていけないもんな。

「…ふふ」

もう一人の女性社員が、壁にもたれながら、溜め息をつく俺を楽しげに眺めていた。

全く他人事だと思って、あいつは…。