「持ち主?そんなのがいるのか」

「いるはずなんだよ。『死火』は『禁忌の黒魔導書』と違って、実体化も出来なければ、魔導書の化身がいる訳でもない」

つまり、アビスやカオスやファントムみたいに、都合良く「我こそが『禁忌の黒魔導書』である!」みたいな、分かりやすい敵が出てきてくれる訳じゃないと。

魔導書本体だけでは何も出来ない。

ただ危険な魔法が書かれているだけの、単なる本でしかない。

「『死火』によって殺された遺体が見つかったってことは…つまり、その『死火』を見つけて、開いて、そこに書かれてある魔法を使った、アホな魔導師がいるってことか」

「うんうん、そういうこと」

今までずっと、『死火』は単なる伝説でしかなかった。

それなのに、どっかのアホが見つけて、そのアホが『死火』に書かれてる危険な魔法を使っちゃったもんだから…。

伝説は、伝説でなくなった…ってことか。

迷惑な話じゃないか。

「でも羽久、もし『死火』を使った魔導師がいるなら、その魔導師はあながちアホとは言えないよ」

「あ?何で?」

アホじゃないか。アホ以外の何だって言うんだ?

「ここに実際に『死火』があったとして…。身近で扱えるのは、私と、羽久と…あとはシュニィちゃんとクュルナちゃん…。ギリギリ吐月君も使えるかな?キュレム君とルイーシュ君は闇魔法適性が強くないから、無理かもね」

「…」

…マジかよ。

聖魔騎士団魔導部隊でも大隊長クラスの魔導師、しかも闇魔法特化タイプの魔導師にしか扱えないって。

そんなバケモノじみた魔導師が、最強の闇魔導書と呼ばれる『死火』を手にしたら。

鬼に金棒、って奴だ。

「…そりゃ厄介だな」

シュニィが俺達にこの話を持ちかけてきた訳だよ。

他の魔導師じゃ、とても歯が立たないだろう。

「そうだね。気をつけて探した方が良いね…」

「大丈夫。いざとなったらシルナを囮にして逃げるから」

「酷い!私も一緒に逃げるよ!」

だってどうせ、シルナは分身じゃん。

助ける努力はするけど、やべぇと思ったら真っ先に逃げよう。

さすがに、クュルナやシュニィクラスの闇魔導師を相手にするのは、骨が折れる。