得体の知れない伝説の魔導書の話が出てきたと思ったら。

また雲行きが怪しくなってきた。

「周辺諸国で、『死火』の闇魔法で殺されたものと見られる遺体が、複数見つかっているんです」

「…」

「それで、ルーデュニア聖王国にこの事件の捜査協力を求められて…」

…で、シュニィが動くことになったのか。

まぁ仕方がない。魔導化学については、ルーデュニア以上に発展している国はないからな。

魔導関連で分からないことがあれば、ルーデュニアに聞け。

それで大体解決する。

…って思われてるんだろうなぁ。間違ってないのが辛いところだ。

しかし。

「何でその死体が、『死火』によるものだって分かったんだ?」

「それは…」

シュニィは、途端に口ごもった。

…?

何か言いにくいことでもあるのかと思ったら。

シルナが、シュニィの代わりに言った。

「…炭…なんだね?遺体が」

「…はい」

…炭?

「シルナ、炭って?」

「丸焦げなんだよ。骨まで炭化して、ぼろぼろに焼け焦げた遺体…」

「…!」

「『死火』の闇魔法は、魔法をかけた相手を、魂ごと燃やし尽くす。しかもただ殺すだけじゃなくて、『死火』に殺されると、その魂はこの世とあの世の境を、永遠に彷徨うことになると言われてる」

なんて…悪趣味な魔法だ。

シルナ並みの悪趣味具合。

成程、神を殺す魔法だとか何とか噂される訳だ。

「もし本当にそんな魔導書があるなら、放ってはおけません。これ以上の犠牲者が出る前に…」

「…そうだね。探した方が良さそうだ」

「…お願い出来ませんでしょうか。学院長先生は、古い魔導書についてもお詳しいですし…。もし噂通りの危険な魔導書なら、並みの魔導師では…」

返り討ちどころじゃ済まないかもしれないな。

「何かとあれば学院長先生にばかり頼んで、申し訳ないんですけど…」

「大丈夫、大丈夫。それも私の仕事だよ。可愛い教え子の頼みとあれば、喜んで」

「そうそう。心配しなくてもシルナはシュニィの頼みには逆らえないよ。何せ、告白シーンとキスシーンを盗み見たという負い目が、」

「え?」

「あーあーあー!何でもないよーシュニィちゃん!『死火』のことは私と羽久にばっちり任せてね!」

首を傾げるシュニィに、あわてふためくシルナ。

慌てるくらいなら、最初から覗き見なきゃ良かったものを。