ある日の放課後、私達は暗くなるまで訓練場に入り浸っていたのだが。

「あ、下校時刻…」

下校時刻十五分前を告げるチャイムが鳴り、生徒達が帰り支度を始めた。

「アトラスさん、今日はもう帰りましょう」

「あぁ。もうそんな時間か。早いな」

本当。

図書館で本を読んでいるときも、時が過ぎるのは早いけど。

アトラスさんとこうして訓練している時間も、何故かとても短く感じる。

「ふぅ…。今日も随分頑張ったな」

「そうですね」

私と違って、アトラスさんは重たい剣を振り回しているから、それは疲れもするだろう。

かく言う私も、闘牛のように激しく動き回るアトラスさんに合わせて、その都度補助魔法を考え、組み立てて使っているので、頭が疲れる。

だいぶ慣れてはきた。

お互いに連携も取れてきて、なかなか様になってきたのではないだろうか。

「使った魔導人形、片付けますね」

疲れているであろうアトラスさんの代わりにと、私は訓練に使った十体ばかりの魔導人形を、倉庫に片付けようとした。

この魔導人形、実践訓練用のものなので、人形と言えば可愛らしいが、普通の大人と同じ大きさで、重さもかなりあるタイプ。

ひょいっと持ち上げてみたものの、意外と重い。

普段ならそれでも運べるのだが、たくさん魔法を使って疲れていたらしく、私は人形の重さに負けて躓いてしまった。

「きゃ…!」

「っ、危ない!」

人形ごと倒れかけたところを、アトラスさんに抱き止められるようにして支えられた。

「大丈夫か!?」

「す、済みません…」

アトラスさんが私と床の間に滑り込み、クッション代わりになってくれたお陰で、ちっとも痛くなかったのだが。

まるで身体を重ねるような格好で倒れてしまったことに気づき、私は慌てて彼の上から退いた。

「ご、ごめんなさい、私…」

思わず頬が赤くなるのを隠しながら、私は必死に謝った。

ふざけるな、こっちが怪我するところだったんだぞ、と怒られるかと思った。

しかし。

「本当に大丈夫なのか?怪我は?」

ガシッ、と腕を掴まれ、食い気味に尋ねるアトラスさん。

「だ、大丈夫です…。あなたこそ、私…押し潰しちゃって…」

「俺は平気だ。この程度で怪我するほど、ヤワじゃないぞ」

そ、そうですか。

「人形は俺が運ぶから、少し待っててくれ」

「え…。じゃあ、剣は私が」

武器庫に返しておきます、と言おうとしたのだが。

「駄目だ。落とすと危ないだろう。剣も俺が持っていくから」

「そ、そんな。それじゃ私、何も…」

「良いから。大人しくしてるんだ」

「…はい」

有無を言わさずそう指示され、私はポツンと立ち尽くすしか出来なかった。

その間にアトラスさんは、左右に魔導人形を一つずつ持って、小走りに片付けてしまった。

凄いパワーである。

剣を落とすと危ないって…。魔導人形で躓いておきながらこんなこと言うのは生意気かもしれないが。

私だって、剣を落とすほど不注意じゃないつもりなのだが?

ひ弱な魔導師だと思われたのだろうか?それはそれでちょっと傷つくけど…。