…そう言ってくれるのは有り難い。

嬉しいことだ。

でも…。

「…ジュリス君。羽久を保護してくれたことは、心から感謝してる」

シルナが、ジュリスに向かって言った。

「でも、君は一体、何故こんなところで、人間の振りをしている?」

「…」

「…どうやら、大昔から私のことを知ってるようだしね」

「…あぁ」

ジュリスは、溜め息をついて頭をガリガリと掻いた。

「あんま言いたくなかったんだけど…。まぁ気になるよなぁ。別に何か壮大な野望があって、こんなことしてる訳じゃねぇよ。ただ…」

「…ただ?」

「…嫌になっただけだ。神が、魔法が全てを支配する世界が…。あんたにも分かるだろ?イーニシュフェルトのあんたなら」

「…」

…シルナも、思うところがあるらしいな。

俺にもある。

「嫌になって、逃げ出して…。人間の振りして生きてきた。もう何千年も、ずっと…」

「…戻ってくる気はないの?」

「さぁ…。今更、俺に戻る場所なんかあるかな」

「君ほどの魔導師なら、聖魔騎士団魔導部隊が歓迎するよ」

そうだな。

ジュリスが相当の魔導師であることは、見ただけで分かる。

どうやら、随分長生きしてるようだし…。

「イーニシュフェルトの大恩人であるあんたの誘いなら、やぶさかじゃねぇ…。けど、今は無理だ」

「…今じゃなければ良いってこと?」

「俺は今、『オプスキュリテ』を背負ってる。投げ出す訳にはいかねぇよ。ここで人間としての一生を終えて…。魔導師に戻るかどうかは、それから考える」

…そういうことか。

組織の頭目としての責任は、ちゃんと果たしたいと。

実にジュリスらしい…。

「…なら、羽久だけ…連れて帰るよ。気が向いたら、君もおいで。君には、羽久を守ってくれた恩もある」

「あぁ…。機会があれば、また会おう」

シルナにそう言ってから、ジュリスはこちらを向いた。

「…お前も元気でな」

「ジュリス…」

お人好しな男だ。

サナキであったときの俺は、ジュリスにとって厄介者以外の何者でもなかっただろうに。

それなのにジュリスは、シルナが迎えに来るまで、ずっと俺を保護してくれた。

「…俺の中のサナキが、お前に言ってる。『ありがとう』って…」

「…そうか。…どういたしまして」

叶うことなら、ここでサナキとして、一生をジュリスと共に『オプスキュリテ』に捧げたとしても、悔いはなかったことだろう。