イーニシュフェルト。

シルナ・エインリー。

イーニシュフェルトの名前を…今もなお使う者がいるとしたら、それは…。

「…あぁ、そうか…」

…あんたか。

あんたが…。世界を…。

「…分かったよ。サナキは返すよ」

俺は、出しかけた杖をしまった。

「…?」

クュルナという女の方は、いきなり戦意をなくした俺に戸惑っていた。

シルナ・エインリーも。

「…良いのかい?戦わなくて」

「馬鹿を言うな。…イーニシュフェルトの生き残りと杖を交えるほど、俺は恩知らずじゃねぇよ」

「…そう…。君、それほど長く…」

あぁ。長く生きてる。

気の遠くなるほど長い時間を。

あんたも、それは同じだろう。

「…一応聞いとくが、あんたらは…あいつを、サナキを利用する為に連れ戻そうって訳じゃないんだよな?」

もしそうなのだとしたら、サナキを返すかどうか躊躇うが。

「私はただあの子に傍にいて欲しいだけだ。あの子は…私の生きる理由なんだよ」

「…そうか」

生きる理由…か。

あんたが言うと…言葉の重みが違うな。

「…分かった。でも…あいつ、多分お前達のこと忘れてるぞ?」

「あぁ…。別の人格が出てきてるんだよ、きっと」

別の人格…そういうことか。

サナキの不可解な「妄想」の理由が、これで分かった。

…まぁ、そんなことだろうとは思っていたが。

要するにサナキは、多重人格者で。

サナキという人格は、彼の中にいる大勢の、一人に過ぎないのだ。

それでも俺達が知るあいつは、サナキ一人だけだ。

「…ついてきてくれ。『オプスキュリテ』のアジトに案内する」

「『オプスキュリテ』…?」

「俺達の組織だよ」

堅気の人間を招くには、いささか物騒なアジトだが、仕方ない。