──────…さてと。

マキナスとサナキを逃がしたのは良いが。

俺はと言うと、絶賛大ピンチだな。

「…君は、事情を知っていそうな顔だね」

こんな…見るからにヤバそうな奴が相手とは。

「…」

「さっきの彼を追い返したのは、仲間の目を憚らずに魔法を使う為?」

…ほらな。

俺の正体も、あっさりバレてる。

「…この世界に、魔法なんてねぇよ」

「でも君の世界にはある。そうだね?ジュリス君…君は魔導師だ」

…まぁ、見たら分かるよな。あんたくらいの手練になれば。

俺だって、サナキを見た瞬間に気づいたのだから。

あぁ、こいつは同類だ、って。

俺と同じ…魔法を使える不思議な世界から来たんだ、って。

「君達が連れていったあの子、私達の仲間なんだよ。返してくれる?」

「それは無理だ。さっき言ったろ」

「それは無理だよ。私達はあの子を探して、千年も時空をさまよってきた。そんな長い旅路の果てに、ようやく見つけたんだから…。手ぶらで帰る訳にはいかない」

帰さないのなら、いかなる手段でも使う。

そう言いたそうじゃないか。

そして、実際そのつもりなのだろう。

この二人を相手にするのは、俺もいささか骨が折れそうだ。

…魔法なんて使うのは、何千年ぶりだしな。

でも。

「…あんたらが、サナキの敵でない保証は何処にもない」

サナキの過去。あいつの「妄想」。

それがこいつらにとって作り出されたものなら。

こいつらが…サナキを奴隷にする為に連れ戻そうとしているのなら。

俺は、それを止める。

「あんたらが何者か分からねぇ以上、サナキを渡す訳にはいかないな」

「…」

サナキを連れ戻しに来た中年の男は、品定めでもするように俺を見つめた。

一方もう一人の女は、完全にやる気満々のようで。

「…それはこちらの台詞です。羽久さんは返してもらいます」

そっちがその気ならかかってこい、と言わんばかり。

羽久…羽久ねぇ。

それが…サナキの前の名前なのか。

「…ごめんね」

中年の男が、溜め息混じりにそう言った。

穏やかではあるが、目は本気だった。

「…私はあの子を返してもらわなきゃならないんだ。イーニシュフェルトと、シルナ・エインリーの名に懸けて…あの子は返してもらう」

「…!?」

この、男。

今、何と言った?